「カネがないから」で強盗殺人をする時代に 日本人は“安全神話”に甘えていたのか(中川淳一郎)
物騒な時代になりましたね……。「闇バイト」に応募した困窮若者が「指示役」から鉄砲玉のように使われ、カネを持っているであろう家に押しかけ、暴行し、場合によっては殺害をし、現金20万円ナリやら貴金属類を奪う。実行犯は個人情報を全部指示役に渡しているから自身の身と家族の身を守るべく、犯罪に加担する。 【写真11枚】「ルフィ」は荒稼ぎしたカネでフィリピンパブに…露出度の高い“挑発的なドレス”をまとうマニラの「美人ホステス」
カネがないから、で犯罪に加担するのってマンガ「北斗の拳」に登場する「修羅の国」の世界でしょう。同作は「199X」年が舞台のため、われわれはその25~30年後の世界にいることになりますが、無法者からいつ財産を狙われるか分からない状況がついに到来したわけです。 中米や南米の場合はこれが当たり前の世界観ですが、日本がまさかこのようになるとは。「水と安全はタダ」といった言説が生きていた1990年代と比べると隔世の感があります。 しかし、日本人は安全神話と性善説に甘えている面もある、と世界のさまざまな国を回った経験から感じます。海外では、空港やら駅で椅子に座り、リュックを床に置く場合、突然盗まれないよう、肩と背中にかける「ショルダーハーネス」部分を足に絡ませます。トイレに行く時に席に荷物を置いたままなんてもってのほか。スマホを尻のポケットに入れておくことさえはばかられます。
海外で見た衝撃的な現場について振り返ります。まずはチェコの首都プラハ。旧市街の大通りを歩いていたら、突然大男が後ろから観光客の頭を殴る。周囲の人は呆気に取られるものの、なぜかこの二人はそこでストリートファイティングを開始し、一人は歯が折れた。強盗というわけではないのに、突然殴るのです。 その数時間後、タクシーに乗ったら、やられた……。白タクでした。とにかく10メートル進むたびにメーターが「2」ずつ上がっていき、本来800円ほどの距離なのにみるみる内に2万円超え。さすがに信号で止まった時に妻を外に出し、私は「このぼったくりクソ野郎が!」と叫び、1000円ほどを置いて飛び降りました。 アメリカに住んでいたときは、経済的にアメリカよりイケていた日本人である私の家に毎週末、爆竹が投げ込まれるという娯楽が続きました。私自身は遭ったことはないですが、銃乱射事件もあります。あと、小さな街ではありましたが、アメリカのネオナチの創設者ジョージ・ロックウェルの出身地ということで、毎年、この男をたたえるパレードとイベントが開催されました。当然有色人種はその日、会場である公園には行けません。 9・11テロの後、アフガニスタンに取材に行ったときは、まぁ、特殊事態とはいえ、ホテルからは「18時以降は外に出るな」と言われ、さらに客室に行くには何重もの鉄格子を突破しなくてはならない。夜になると銃声が聞こえる。 帰りは首都カブールからパキスタンへ陸路で行ったのですが、「ここでイタリア人記者が死んだ」と運転手から伝えられたり、銃を抱えた兵士がわれわれを止めたりもする。死を覚悟したものの、「この婆さんを隣の街まで乗せていってやれ」と言われ、拍子抜けしました。しかし、日本がこのレベルになったらキツいですよね。 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう) 1973(昭和48)年東京都生まれ。ネットニュース編集者。博報堂で企業のPR業務に携わり、2001年に退社。雑誌のライター、「TVブロス」編集者等を経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』等。 まんきつ 1975(昭和50)年埼玉県生まれ。日本大学藝術学部卒。ブログ「まんしゅうきつこのオリモノわんだーらんど」で注目を浴び、漫画家、イラストレーターとして活躍。著書に『アル中ワンダーランド』(扶桑社)『ハルモヤさん』(新潮社)など。 「週刊新潮」2024年11月7日号 掲載
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