なぜか衆院選の争点にならない「物価高」 減税や給付ではなにも解決しない
賃上げを上回り続ける物価高
企業業績が好調だと伝えられるわりには、景気の良さを実感している人が少ない。主たる理由は物価高である。新聞紙上にも、それをめぐるネガティブな記事が目立つ。 【写真】「子どもに外食させて親は自炊」 世帯年収1000万円はもはや「勝ち組」ではない
10月9日付朝日新聞朝刊は「実質賃金 再びマイナス」という記事を掲載した。厚労省が8日に発表した、8月分の毎月勤労統計調査(速報)によると、労働者の名目賃金にあたる現金給与総額は3.0%増で、なかでも基本給など所定内給与が3.0%増(26万4,038円)なのは、「1992年10月以来、31年10カ月ぶりの高い伸び」だという。 だが、話がそこで止まっていればよろこばしいが、そうはいかない。「8月の消費者物価指数は6、7月をやや上回る3.5%の上昇となり、物価上昇分を差し引いた実質賃金は0.6%のマイナスとなった」というオチがついた。 この状況では当然だが、10月8日付読売新聞夕刊は「消費 2か月ぶり減」と報じた。総務省が8日に発表した8月の家計調査によると、1世帯あたりの消費支出は、物価変動の影響を除いた実質で前年同月比1.9%減だった、という内容である。 当面、こうした流れが止まる気配はない。10月には今年最多となる2,900品目の食品が値上げされた。10月10日に日本銀行が発表した9月の生活意識アンケートでも、現在の物価が1年前とくらべて「上がった」と回答した人が94.7%におよんだ。いうまでもなく、物価高が続けば消費マインドは冷え込む。 賃金がいくら上がっても、それを上回ってしまう物価高にどう対するか。むろん、それは今回の総選挙の争点にもなっている。石破茂総理は所信表明演説で「物価上昇を上回る経済の好循環を実現する」と訴えたが、具体的な策はまだ見えない。それに対し、各党が打ち出した経済政策は、そのほとんどが減税や給付だが、はたしてそれでいいのだろうか。
物価高の原因を放置した弥縫策
現在、多くの消費者が、将来にわたり物価上昇が続くという懸念をいだいている。先述の日銀による9月の生活意識アンケートでも、1年後に物価が「上がる」と答えた人は、前回調査よりは減ったものの、85.6%という高い割合を占めた。このように消費者に物価高への懸念があるかぎり、個人消費が伸びる可能性は低い。 それなのに、たとえば電気やガス、ガソリンなどへの補助金を継続したところで、一時しのぎの救済策にはなっても、個人消費の伸びにはつながらないだろう。いまの物価高をもたらしている大本にメスを入れないかぎり、なにを講じても弥縫策にしかならない。 それでは、物価高の原因はなにか。それは円安によって輸入物価が上がったことに尽きる。日本の食料自給率は38%にすぎない。平均102%というG7諸国のなかで、日本は群を抜いて低い。そのうえ一次エネルギーの9割を輸入に頼っている。これだけ輸入に頼らざるをえないかぎり、給付を増やそうと、減税しようと、為替レートが円安のままでは物価は下がらず、いたちごっこが続くだけなのだ。 次に、円安の原因だが、それは日本と欧米とのあいだの金利差にある。日本ではアベノミクスの「第1の矢」とされた「金融緩和」が長く続けられた。当初は世界の主要国の金利も低く、大きな金利は生じなかったが、2022年から各国の中央銀行は、ポスト・コロナのインフレに対応するために短期金利を急速に引き上げた。しかし、日本だけはその流れを完全に無視して「金融緩和」を続けたので、金利差が一気に広がったのである。 日銀が早い時期に緩和政策を撤回し、金利の上昇を認めていれば、いまの物価高騰も、それを原因とする実質賃金の低下も、かなり食い止めることができただろう。それができなかったのは、アベノミクスの「第2の矢」であった「財政出動」とも関係がある。日本は金利がゼロなのをいいことに、野放図に国債を発行し、それを日銀が購入してきた。利上げすれば国債の償還費が上昇し、日銀の収支が悪化してしまう。 このため、日銀は(政府も)思い切った手を打てなくなっているのだが、物価高対策とはつまるところ、日銀が金融の正常化を進め、金利を上げることでしかない。