スズキ、軽トラで「CES」に挑戦! 中古輸出10年で10倍の追い風、米国市場席巻なるか?
市場拡大への壁と課題
米国市場での軽トラの将来性には課題もある。競合として、ポラリスやヤマハ、クボタ、カワサキなどが展開するユーティリティビークル(UTV)やオールテレインビークル(ATV)が挙げられる。 これらの車両はオフロード性能やカスタマイズ性に優れており、農業用途やアウトドア市場で確固たる地位を築いている。特にオフロード性能やブランドの認知度では、すでに市場に広く浸透しているといえる。たとえば、ポラリスの廉価版UTV「レンジャー570」の販売価格は約1万ドル(約155万円)で、中古軽トラの100万円前後と比較しても十分競争力を保っている。 また、25年ルールが軽トラの市場拡大を阻む大きな壁となっている。このルールのため、米国で輸入できる軽トラは古い中古車両に限定され、新しいモデルを導入するのは難しい。さらに、州ごとの規制も問題だ。現時点ではカリフォルニア州やミシガン州など19州で軽トラの公道走行が許可されているが、全米50州のうち半数以下にとどまっている。こうした要因が中古軽トラ需要の伸びを制約している。 今後は、25年ルールや公道走行の規制をどのようにクリアするかが重要な課題となるだろう。これらのハードルを乗り越えられるかが、米国市場における軽トラの成長を左右するポイントになる。
競争激化と規制突破がカギ
それでもスズキが軽トラをCESに出展する決断をしたのには、戦略的な意図があるように思える。 その理由のひとつは、 「軽トラとUTVやATVの違いが明確である」 ことだ。UTVは基本的にオフロード用に設計され、公道走行には適していない。一方、軽トラは道路法規に準じた設計がされており、安全性や耐久性に優れているのが特徴だ。また、一定の車内スペースが確保されているため、快適性の面でもUTVやATVより優れている部分がある。 さらに、電動化やコネクテッド技術の導入も軽トラの可能性を広げる要素になる。米国市場で環境規制が強化されている中で、電動軽トラを展開できれば、新たな需要を獲得する大きな可能性が生まれる。 スズキがCESに軽トラを出展したのは、米国市場での潜在的な需要を掘り起こす画期的な試みといえる。単なる参考出品にとどまらず、市場調査やブランド認知を高める狙いがあると考えられる。ただし、既存のUTVやATV市場との競争や、25年ルールによる制約などの課題も多い。これらを乗り越えるためには、明確な方向性が必要だ。 今回のスズキの挑戦が米国市場で軽トラの地位を向上させ、さらなる市場開拓につながるのかどうか。CES出展をきっかけに軽トラへの関心がどれだけ高まるか、今後の動きに注目したい。
成家千春(自動車経済ライター)