公共交通で「タッチ決済」が急成長! ぶ厚い“クレカの壁”を打破するのはデビットカードなのか?
クレジットカード未所持者の対策
今回の実証実験は、まさに三井住友カードが積極的に推進する大規模なプロジェクトといえる。同じ時期に実験がスタートしているのは、決済事業者が共通しているためだ。いずれにせよ、今回の実証実験は私たちの身近な公共交通に新しい決済手段を加える画期的な取り組みだ。 ただ、 「クレジットカードのタッチ決済は本当に誰にとっても使いやすいのか」 を再考する必要があるだろう。公共交通である以上、乗車のための決済方法は、その沿線に住む地域住民や関係者にとっても使いやすいものでなければならない。だが、クレジットカードには審査があり、 ・高齢の主婦 ・高校生以下の若者 ・クレジットカードを避けたい人 にとっては、利用が難しいこともある。 そう考えると、日本においてタッチ決済の導入優先度は、交通系ICカードやQRコード決済に比べて低いのではないだろうか。
デビットカードが急速普及の可能性
しかし、この分野に「救世主」が現れるかもしれない。それは国際ブランド付きのデビットカードだ。 日本では、デビットカードは長い間マイナーな決済手段とされてきた。このカードは、ひも付け先の預金口座の残高から利用分が即時に引き落とされる仕組みで、どれだけ使っても負債にはならない。そのため、ほとんどのデビットカードは審査不要で、未成年でも所有できる。しかし、パンデミック以前は日本のキャッシュレス決済を発展させることはなかった。 とはいえ、これは今後の普及や拡大の余地があることでもある。ビザ・ワールドワイド・ジャパンによると、2015年にはビザデビットの発行銀行数は国内でわずか10行、発行枚数も300万枚に届かない数字だった。それが2024年には、発行銀行数が41行、発行枚数は2500万枚を超えている。 キャッシュレス決済全体における利用比率についても見てみよう。2017年の日本では、キャッシュレス決済の中でクレジットカードが占める割合は90.2%だった。一方、デビットカードはわずか1.7%にすぎなかった。しかし、2023年にはクレジットカードが83.5%、デビットカードが2.9%に増加している。このことから、決済手段の多様化によりクレジットカードが 「キャッシュレス決済の絶対王者」 でなくなり、デビットカードが着実にその割合を伸ばしていることがわかる。 近年のデビットカードの躍進は、パンデミック期の「巣ごもり消費」がプラスに働いたことと、タッチ決済の普及が大きな要因となっている。
列島を巻き込む相乗効果への期待
これらのデータを考えると、公共交通がタッチ決済に対応することで、沿線住民がデビットカードという決済手段を認識する効果が期待できる。 さらに、デビットカードの普及は、これまでタッチ決済導入に慎重だった交通事業者をも動かすきっかけになるかもしれない。 公共交通がタッチ決済に対応することでデビットカードが普及し、その普及がまた公共交通のタッチ決済をさらに進める。こうした相乗効果が、日本全体で広がる可能性もある。 いずれにせよ、公共交通におけるタッチ決済の普及・拡大の鍵を握るのは、クレジットカードではなくデビットカードになりそうだ。
澤田真一(ライター)