「今欲しいのは正論じゃない」あえて主人公を成長させない『恋とか夢とかてんてんてん』
夢みて上京しながらも生活に追われてしまい、東京で生きる意味を見いだせていない主人公・カイちゃん。29歳・フリーターであるカイちゃんのやるせない日常&暴走中の恋愛が圧倒的解像度で描かれていると話題のまんが『恋とか夢とかてんてんてん』(以下、『恋てん』)の著者である世良田波波さんにインタビュー。 【画像】『恋とか夢とかてんてんてん』より。 片思いの「すべて」が詰まっている、物語の魅力に迫ります。
「恋愛でやられちゃってるコマがお気に入り」
――漫画を描く時、先生は主人公に感情移入しながら描きますか? 俯瞰して描きますか? どちらもあります。つらいシーンでも俯瞰して笑っちゃいながら描いている時もあれば、本当にとことんつらいシーンは感情移入して描いていたり。でも俯瞰した視点を持っていなくてはいけないというのは全体的に意識しています。ちょっとこれはつらいかなと思う展開が重なる時も、ここまでしたら面白いとか、ちょっとギャグのように読めたらいいなと思いながら描いていることもあります。 ――面白いというキーワードもありましたが、先生は実はお笑い好きだとか。 一番好きな芸人はダイアンです。ABCラジオの『よなよな…』はずっと聞いていました。今でも『ダイアンのTOKYO STYLE』『ダイアンのラジオさん』は聞いています。ほかにも霜降り明星、マヂカルラブリーなど。やっぱりラジオが面白い芸人さんが好きですね。小学生の時、不登校で引きこもっていた時期があるんです。その時から深夜ラジオに救われてきました。遊びで漫画を描いていたのもその頃です。 ――先生の作品はとてもゆるいタッチなのに、感情表現が豊かですよね。笑い顔も泣き顔も多様で、コロコロと表情が変わる。 ありがとうございます。連載が始まる前に編集さんに「感情を意識して描きましょう」と助言をいただきました。これまでは割と淡々と進む漫画を描いていて漫画の中に一つだけドバーッと感情を出すシーンを入れるとかして緩急つけて描いていたのですが、『恋てん』は嬉しい悲しい寂しい苦しいなどの感情全部を意識して描くようになりました。寄りの表情は特に意識して描いています。特に気に入っているのは、1巻の最後の笑顔のシーン。これはもう、感情移入をしながら描きました。完全に恋に脳みそをやられてる顔。自分でもこれをよく描けたなと思います。 ――特に好きなキャラクターはいますか? やっぱりカイちゃんですね。いろんな面を見せてくれるというか、暴れまわってくれるところが好きです。 ――カイちゃんはあえてみっともなく描こうという意志もあるんでしょうか。 あります。カイちゃんという人間の感情を描くには、やっぱりその部分を隠したらダメなので。カイちゃんのみっともない部分もだし、自分のみっともない部分も出しています。