「異業種×本屋」でどうなった? ホテルに「風呂屋書店」をオープンして、見えてきたこと
札幌市のホテル「定山渓第一寶亭留翠山亭」(じょうざんけい だいいちほてる すいざんてい)に、「風呂屋書店」がオープンして1カ月が経過した。同書店は、大日本印刷(DNP)が、"書店業以外"の事業者に提供する開業支援サービスの第一弾となる。各自治体で書店が減少する中、“異色本屋”の現状を聞いた。 【画像】え、ホテルに書店? 個室が3つもある、ソフトドリンクを提供、「MUJIN書店」1号店、シェア型書店の「ほんまる」、癒しスポット「風呂屋書店」じっくり見る(全9枚) 出版文化産業振興財団(JPIC)の調査によると、全国の自治体の27.7%(482自治体)で書店が1店舗もない状態となっている(2024年3月時点)。一方で、書店に対するニーズは決して消えていない。むしろ「本のある空間」への関心は高く、書店業界では新たなビジネスモデルが登場している。 取次大手のトーハンは無人で営業できる「MUJIN書店」を都内に3店舗展開。いずれの店舗も有人と無人のハイブリッド型で24時間営業を行い、早朝や夜間の購買ニーズにも対応している。無人営業を可能にしたシステムは最小で初期費用100万円程度、月額費用6万5000円という低コストで導入でき、売り上げは従来比5%程度の増加を実現している。 直木賞作家の今村翔吾氏が手がける「ほんまる」は、364ある本棚を個人や法人に月額4850円から貸し出す「シェア型書店」として注目を集めている。開業から3カ月で棚の利用率は85%に達し、全体の3割を法人契約が占めるなど、安定した経営を実現している。 こうした状況の中、DNPは既存の書店に限らない「本との出会いの場」の創出に着手。その一環として、書店業以外の事業者向けに開業支援サービスを展開している。滞在時間の延長やリピート率の向上を目指す事業者に対し、「本」という新たな付加価値の提供を提案する。 その第一弾として誕生したのが、定山渓第一寶亭留翠山亭内に9月にオープンした風呂屋書店だ。
宿泊客の新たな行動パターンを生んだ
風呂屋書店は、もともと2階のマッサージコーナーだったスペースを改装し、約2500冊を取りそろえた書店として生まれ変わった。3つの個室を備え、無人運営でコストを抑えながら、新たな顧客体験を創出している。 同ホテル採用広報室長の大島彩乃さんによると、利用者の約9割を宿泊客が占め、「当初は全く売れないと思っていたが、予想以上に売れている」という。特にチェックアウト時に購入する人が多く、滞在中に複数回足を運び、気に入った本を土産として選ぶという新たな行動パターンが定着しつつあるようだ。 売れ筋の中心は定山渓温泉や札幌に関連した本で、意外にも昔から親しまれる絵本もコンスタントに売れているという。選書については、約半数をDNPが担当し、宿泊客が「読みたくなる」ような品ぞろえに注力しているそうだ。 風呂屋書店は、大浴場と同じフロアにあることから、湯上がりの待ち合わせ場所としても機能している。「これまではラウンジでスマートフォンを見る人が多かったが、最近は本を読む文化的な光景が広がってきた」(大島さん) 宿泊者向けアンケートでも、同ホテルで最も気に入った場所として風呂屋書店を挙げる声が多く寄せられているという。