父を失ったのに泣けない…50代女性の悩みに住職・名取芳彦さんがアドバイス
故人の教えは、やがて来る自分の死への心構えになる
たとえば、私が学んだのは「人は死ぬまで、日々、自分の命の第一線を、自分の人生の最前線を生きているのです」という事実。 「人は死ぬまで生きています。ですから生きているうちに“私が死んだらどうなる?”と遺族のことを心配したり、“死んだらどこへ行くのだろう?”と自分の後生を心配したりせず、生きているうちにできることをしっかり考えたほうがいいですよ」という現実逃避しない勇気。 「人は死んでも無にはなりません。思い出と影響力は確実に残ります」という真実。 ヘレン・ケラーが残したと言われる、「死ぬことは、ひとつの部屋から次の部屋へ入っていくのと同じなのよ。でも、私には大きな違いがあるの。だって次の部屋では目が見えるんですもの」というロマン溢れる言葉に私が共感するのも、「二人称の死」を多く経験してきたからでしょう。 遺影を見ると「あなたも私のようにいつ死んでしまうかわからないから、生きているうちにやりたいことを精一杯おやりなさい」と諭(さと)してくれている気がします。 さまざまな状況の中で死を迎えた人が教えてくれたことは、やがて来る自分の死に対する心構えになります。 どうぞ、お父さんから受けた“おかげ”を意識してください。してもらったことだけではありません。 お父さんを反面教師として「私はあんな言い方はしないし、あんなことはしないと誓った」なども、お父さんから受けた“おかげ”の一つです。 近いうちに、「長い間、お疲れさまでした。いろいろありがとう」と、ねぎらいと感謝の気持ちで、お父さんを丸ごと包める日がくることをお祈りしています。 ■回答者プロフィール:名取芳彦さん なとり・ほうげん 1958(昭和33)年、東京都生まれ。元結不動・密蔵院住職。真言宗豊山派布教研究所研究員。豊山流大師講(ご詠歌)詠匠。写仏、ご詠歌、法話・読経、講演などを通し幅広い布教活動を行う。日常を仏教で“加減乗除”する切り口は好評。『感性をみがく練習』(幻冬舎刊)『心が晴れる智恵』(清流出版)『心がほっとする般若心経のことば』(永岡書店)など、著書多数。
ハルメク365編集部