JR西日本「夢洲延伸」は実現可能か? 11月から検討会、30年IR開業に向けた鉄道戦略を考える
京阪電鉄は九条延伸に「さらなる検討必要」
3路線のうち、中之島線延伸は中之島駅から九条駅までの約2km。九条駅には大阪メトロ中央線と阪神電鉄なんば線が乗り入れている。中之島線が延伸すれば夢洲と京都市中心部が乗り換え1回で結ばれる。京都観光の訪日客を夢洲へ誘導しやすくなるほか、IR利用客の京都観光にも便利だ。 京阪電鉄にもメリットが大きい。中之島駅と京阪本線の天満橋駅(中央区)を結ぶ3.0kmの中之島線は、沿線4駅の1日平均乗降人員が2022年度で計約2万2000人。 「都心部を走る路線と思えないほど」 利用が伸びていない。九条駅に乗り入れれば、収支改善が期待できる。 中之島線は施設の建設・保有を大阪府市の第三セクター・中之島高速鉄道が担い、京阪電鉄が運行を務める上下分離方式を採る。九条延伸も同様に整備するとすれば、行政として費用便益比などの事前調査が必要。京阪電鉄は事業化に前向きだが、これまでIR事業者に解除権があることを理由に結論を先送りしてきた。 京阪電鉄は 「検討会の対象になることはありがたいが、IRのより詳しい情報がほしいし、国など関係機関との調整も必要。すぐにゴーサインを出せるものではない」 とさらに検討を重ねる姿勢を示した。 答申路線は中之島駅から西九条駅、USJ北側に位置する新桜島駅(此花区)、人工島の舞洲(同)を通って夢洲に至る約11km。中之島線の延伸ルートを想定し、1989(平成元)年の運輸政策審議会、2004年の近畿地方交通審議会で答申された。大阪府市の2014年調査で事業費3500億円と見積もられている。 しかし、京阪電鉄は既に九条延伸へかじを切り、事業化の動きがない。再びこの構想にスポットライトが当たると考えにくいが、今回の検討会では中之島線の九条延伸や桜島線の夢洲延伸の輸送量や費用便益比などを比較する対象になると見られている。
JR西日本は事業費や利用者数に懸念
大阪府市が3ルートのなかで最も期待しているのが、 「桜島線の延伸」 だ。桜島駅から舞洲経由で夢洲に入る約6kmで、実現すれば大阪駅まで直通列車を走らせることができ、新快速に乗り継げば京都駅まで1回の乗り換えで済む。新大阪駅での新幹線利用も便利になる。 JR西日本はコロナ禍前に2030年ごろの夢洲アクセス検討を中期経営計画に打ち出すなど、前向きな姿勢を見せたこともあったが、コロナ禍後は慎重姿勢を崩していない。新しい中期経営計画では目標時期を外している。 懸念材料は事業費。2か所で海を渡るため、大阪府市の2014(平成26)年調査では工期11年、事業費1700億円と見積もられた。JR西日本からすれば、昨今の建設費高騰でどれだけの事業費が必要になるのか、公共予算がどれだけ投じられるかなどを確認しなければ、手を出しにくい。 夢洲に住民がいないことも悩ましい問題だ。万博閉幕後のまちづくりは基本構想が2017年に示された程度で、具体的な姿が浮上していない。現時点では通勤利用が限られ、IR関係の利用しか見込めないのが実情。JR西日本は 「延伸は大阪の社会インフラとして重要だが、鉄道事業者だけでできるものではない」 と述べた。 JR西日本の慎重姿勢を崩すには、今回の検討会で大阪府市がこれら懸念の解消につながる情報を示さなければならないだろう。大阪府市はJR西日本にどんなボールを投げるのだろうか。
高田泰(フリージャーナリスト)