【朝日杯FS】混戦を切り裂く“大人びた”走り アドマイヤズームが鮮やかV!
「とても難しい馬なので」―― 優勝騎手インタビューで川田将雅はアドマイヤズームのことをこう評したのがとても印象に残った。 【ガチ予想】2歳マイル王決定戦「朝日杯FS」をガチ予想!キャプテン渡辺の自腹で目指せ100万円! というのも、この日のアドマイヤズームの走りを見ていると、とてもそうは見えなかったからだ。 前哨戦であるサウジアラビアRCを制して2戦2勝でここに臨んできたアルテヴェローチェが1番人気に推され、クリスチャン・デムーロを鞍上に迎えた3戦2勝のミュージアムマイルが2番人気に支持されるのは大方の予想通りだった。 それ以外の馬は全くの混戦と評されていた今年の朝日杯FS。 実際に単勝オッズで10倍を切る馬は5頭もいたが、これは2014年以来、ちょうど10年ぶりの出来事となった。 そんな混戦模様のメンバーの中でアドマイヤズームの単勝オッズはパドックに姿を現した時点では9.6倍の5番人気。 最終的には9.1倍にまで落ちたが、ついさっきまでパンジャタワーやニタモノドウシといったライバルたちと10倍前後のオッズで争っていたようにその人気は確固たるものではなく、むしろ人気に推され過ぎのようにさえ感じられた。 というのも上位人気に推された5頭のうち、1勝しか挙げていないのはアドマイヤズームだけ。 それも未勝利戦を勝ったばかりでいきなりのGⅠ参戦。京都の芝1600mを2番手追走から1分33秒9という好時計で勝ち切ったとはいえ、相手が一気に強化されたのは間違いない。 それだけにパドックでは幼いところを見せるのでは?と少々気になったが… 二人引きでパドックに現れたアドマイヤズームからはそうしたひ弱さは一切見られず。 468キロとやや小柄な馬体ながらその立ち姿は実に堂々したもので、まるで歴戦の古馬のような落ち着きでとてもデビュー3戦目、これが初の昇級戦、それもGⅠのパドックにやってきた馬とは思えないほどだった。 そんなアドマイヤズームの落ち着きいた様子は本馬場に入ってからも変わらない。 2歳馬の本馬場入場と言えば、チャカチャカする馬もいれば、首を振りながら走る馬もいるなど、どこか落ち着かない馬が多いのが常。 今年の朝日杯FSの出走馬にもそうした傾向はあったが、アドマイヤズームはと言うと、やや頭を高く上げながらもしっかりとした脚さばきで返し馬をこなしていく。 開催が進んだ京都の荒れた馬場に負けない力強いフットワークを見せてくれた。 そんな返し馬から数分後、アドマイヤズームはレースでもその力強いフットワークを見せた。 ゲートが開いた瞬間、2番人気馬のミュージアムマイルが立ち遅れたが、それ以外の馬は軒並み好スタートを切った。 その中からクラスペディアが前に付けていこうとする中、押して押して最内枠から急遽、横山典弘に乗り替わったダイシンラーが先手を奪い、レースの流れを作っていった。 その中でアドマイヤズームはと言うと、ダイシンラーに着く形で2番手の位置をキープ。 前半3ハロンが35秒4とここ5年で最も遅い流れになったことを考えてか、鞍上の川田は早めに動いて行くレース運びを選択した。 そしてこの緩やかな流れを察知して早めに動いて行ったのがスタートで遅れたミュージアムマイル。 荒れた内側の馬場をものともせずに、インコースを突いてポジションを一気に押し上げて京都競馬場の名物である3コーナーの上り坂に入っていった。 坂を上がりきり、4コーナーへ向かって下っていく京都競馬場の外回りコース。 下り坂に合わせて外からタイセイカレントやドラゴンブーストと言った外枠の馬たちが仕掛けていく中でも、アドマイヤズームはまだ動かず。 ここでも川田との折り合いはバッチリで絶好の位置で脚を溜めている。その姿は父モーリスの現役時代にダブって見えるほどだ。 そうして迎えた直線、アドマイヤズームは一気に弾けた。 4コーナーから直線を向いた瞬間、5頭ほどが横並びとなっていたが、その中で最もスピードに乗っていたアドマイヤズームが早々と先頭に立った。 川田の激しい手綱さばきのアクションに応えるようにスピードを上げていったが、それに外からミュージアムマイルが迫ってきたが、アドマイヤズームの脚色はまだまだ与力十分という様子だった。 ゴールまで残り200m。川田が右鞭を入れた瞬間、アドマイヤズームはさらにひと伸びしてみせた。 一歩、また一歩と馬上で川田が懸命に追っているのに同調するようにフットワークは力強くなっていき、淀の馬場を疾走していく。 迎えたゴール直前。気が付けば2馬身以上もの差を付けていたアドマイヤズームはそのまま2歳王者のゴールへと飛び込んだ。 そして2馬身半ほど後ろにいたミュージアムマイルが2着に入り、混戦を抜け出したランスオブカオスはさらに2馬身半離れた3着となった。 スローな流れを見越してスタート直後から2番手を追走し、そして直線では早めに先頭に立ちしかも上がり3ハロンのタイムはメンバー最速となる33秒6と、まさに完全無欠の勝利を飾り、2歳王者となったアドマイヤズーム。 2歳馬らしからぬ走りを見せた彼が「難しい馬」には到底思えないが、インタビューでの川田のコメントは高い期待の裏返しなのかもしれない。 来年の春以降、今よりも成長したアドマイヤズームがどんな走りを我々の前に見せてくれるのか… その雄姿を見られる日が楽しみでならない。 ■文/福嶌弘