紅白、旧ジャニ出演「ゼロ」の真相 スタート社が問題視した「Nスぺ」の“衝撃場面”とは
問題を複雑化させた「Nスペ」
交渉を複雑化させたのは10月20日に放送された「NHKスペシャル(Nスペ) ジャニー喜多川“アイドル帝国”の実像」。ジャニー氏による性加害の被害者補償に当たっているスタート社の担当者が、被害者の家族に電話で「誰が何を謝るんだというのが、ちょっといま分からなくて」などと冷たく語る場面が流された。スタート社のイメージが下がる内容だった。 もっとも、NHK制作畑のスタッフによると、スタート社側が問題視したのは違う部分である。同局と旧ジャニーズ事務所が深い関係になった責任は1人のOBにあるかのような内容だった点だ。元NHK理事、制作局長で、2年前に旧ジャニーズ事務所の顧問に転じ、現在もスタート社顧問の若泉久朗氏(63)である。 若泉氏は「Nスペ」からアポなしで直撃を受けた。顔と名前を出された同局関係者は若泉氏だけ。同局の上級幹部が芸能プロダクションに転出することの是非は別とし、確かに若泉氏だけを責めているように映った。 スタート社にとって今や若泉氏は身内。若泉氏が恥をかかされたようなものだから、黙っていられないだろう。本人も現在はスタート社内で影響力を持っている。「Nスペ」の件に加え、そもそも出場組数の問題もあったため、紅白の交渉は暗礁に乗り上げた。 この経緯を理解するためにはNHKが民放と違い、報道畑と制作畑にはほぼ交流がないことを踏まえなくてはならない。2022年4月入局組までは採用枠も別々だった。 若泉氏の後輩にあたる制作畑のスタッフは「我々は報道とは違って視聴率を求められているから、旧ジャニーズ事務所とも仕事として付き合った。若さん(若泉氏の愛称)もそうだった。それを局内から責められるのは辛い」と、こぼした。確かにニュースと報道だけでは視聴率が獲れないから、NHKの存在意義が問われかねない。 一方で報道畑も職務に忠実なのである。民放の報道は旧ジャニーズ勢に対して忖度を繰り返し、違法行為に目を瞑ったり、手心を加えたりしてきた。だが、NHKのニュースは旧ジャニーズ勢を特別扱いすることがなかった。報道畑にとって旧ジャニーズ事務所は取材対象の1つに過ぎないからである。 2019年、旧ジャニーズ事務所が「新しい地図」のテレビ出演を妨げるため、局に圧力を掛けた疑いが浮上し、公正取引委員会から注意された。この件をスクープしたのもNHKの報道である。 民放だったら事前に旧ジャニーズ事務所にお伺いを立てて、許可が得られないと報道しなかったのではないか。ニュースだけ報じてればいい新聞と違い、エンタメと報道のどちらもやらなくてはならないテレビは最初から難しいのである。