羽生の世界最高得点の逆転優勝はなぜ生まれたのか?
前述の中庭氏は、「SPでは跳び急いだため、タメがなくなり、上半身が起き上がったようになって、踵重心にもなり、うまく次のジャンプにつなげることができていませんでした。ここまでの試合では、4回転のほとんどが不安定でした。ジャンプ時に、軸が外へ外れ、なんとか身体能力とバランス能力でこらえているのが実情でした。コントロールを失うような勢いのつけ方をしていました。でも、この日は、ジャンプへの入りから安定していて、浮いた瞬間に、成功を確信できるほど、軸が安定していました。タメをしっかりと作る効率のいいジャンプでした。そのあたりの修正力は、素晴らしいものがありますが、背景には、練習段階でしっかりと追い込めたということがあるのではないでしょうか」と、分析している。 4回転ジャンプは、練習段階から大きな負担を肉体にかける。疲労の蓄積などで微妙に肉体のコンディションが変わる中で、“神のタイミング”で跳ぶのは生半可ではない。だが、本番の大舞台で羽生は、その領域に踏み込み、“神タイミング”で安定したジャンプを体現したのである。 試合後、羽生は、4回転4本のフリー演技構成を成功させたことと、SPとフリーを共にミスせず揃えることを来年に迫った平昌五輪への収穫として挙げた。 今大会では、宇野も含めて、上位4人が300点を超えてきた。技術点が120点を超えていくる真・4回転時代は、非常に高いレベルで、しかも猛スピードで進化を遂げている。多種類の4回転ジャンプを会得して、そして、「ミスしない」という条件をクリアしたものだけに五輪のメダルチャンスがやってくる。そのプレシーズンに羽生は、世界選手権の舞台で確かな金メダルのイメージを手にしたのかもしれない。