「もう誰かの役に立つことはできないと思っていた」乙武洋匡が二足歩行に挑戦した理由
生まれつき両腕と両足がない先天性四肢欠損の障害があり、ベストセラー『五体不満足』の著者として知られる乙武洋匡さん(45)。最近はロボット義足での二足歩行で話題となり、また“親ガチャ論争” についても、自身の体験をもとにした意見の発信が注目された。スキャンダル報道で、誰かの役に立つ活動をすることを半ば諦めていたという乙武氏が、二足歩行に挑戦した理由とは。今の彼を支える記憶とは。 (ジャーナリスト・中村竜太郎/Yahoo!ニュース Voice)
諦めの時期に出会った「ロボット義足」
――先日、乙武さんがロボット義足を装着し50メートル歩行に成功したことが大きなニュースになりました。 プロジェクトのお話をいただいたのが2017年10月。義足を使って歩いている方は多くいらっしゃいますが、両足とも膝がないという方は義足をつけても技術的に歩行は困難といわれてきました。それが、今回開発したロボット義足によってそんな障害者にも歩ける可能性が出てきた。そこで彼らが、私に白羽の矢を立ててくれたんです。 当時、私はスキャンダルが報じられ、まったく仕事もせず海外を放浪していて、日本に帰るかどうかも決めあぐねていた時期。それまでは、こんな私でも人さまのためにお役に立てるんじゃないかと思って活動をしてきたのですが、自分自身のいたらなさによって、そうしたことが一切できない状態でした。この先の人生、誰かの役に立つことはもうできないのかな。そうやって半ば諦めていた時に、思いがけない形で研究のお手伝いをするという話が来て、二つ返事でお引き受けしたんです。 ――歩きたいと思っている方にもしかすると、希望を届けることができるかもしれないと。 はい、そうです。すごくうれしかったのですが、いざやってみるとまあ大変でした。まず自宅に平行棒を運び込み、猛練習の日々が始まった。短い義足から始めて10センチ刻みで伸ばしていって。歩く距離も最初は2メートル歩くのに四苦八苦。肉体的にも精神的にもきつい。支えなくしては歩けない状態が半年以上続いて、ほんのちょっとずつ距離を伸ばしていきました。 ――50メートル歩行成功の達成感はいかがでしたか。 すごくほっとしたというのが一番大きかったですね。というのも、義足エンジニアや義肢装具士、理学療法士からなるプロジェクトメンバーの一員として参加しているので、普段の活動とは異なるプレッシャーがあったんです。整えてくださった舞台に最後に乗っかっているわけですから、私がうまく歩けるかどうかによって、彼らが積み重ねてきた努力が水の泡になるかもしれない。そんな中結果的にうまくいって、計測66.2メートルの二足歩行を遂げることができました。 ――テクノロジーの進化によって障害者にどんな希望がもたらされますか。 誤解していただきたくないのは、車いすで移動するよりも二足歩行することのほうがすぐれているということではないんです。プロジェクトチームとしては、選択肢を増やしたいという思いからなんです。車いすがいいと思う人は車いすを、義足を装着して歩きたいと思う人は義足で。そういう選択肢がある未来を用意しておきたい。いまの段階で社会実装できると胸を張って言えるところまではいってないと思いますが、誰かが最初の一歩を踏み出さないと受け継いで歩を進めてくれる人は出てきませんし。どれくらい先のことになるか分かりませんけど、日常生活でロボット義足を選んで生活する人が出てくる未来になればいいなと思います。 ――このプロジェクトによって明るい未来が見えるといいですね。 SNSを含めてさまざまな反応がありましたが、「弟が歩ける日が来るかもしれないと思って、胸が熱くなりました」という、おそらくお姉さまからのメッセージでしょうか、その言葉を読んだ時私も胸が熱くなってしまい…。正直言いますと、体はしんどい。でもこうやって希望を感じてくれる方がいるなら、よし、頑張ろう、という気持ちになります。それはみなさんから私への、私からみなさんへのエールの交換なのかもしれません。だから、本当に感謝しています。