JR東日本や戸田建設で「オフィスビルに芸術文化」の新潮流 体験を提供することで不動産価値向上の手段に
ビルの1~6階には芸術文化施設と飲食店などがあり、高層階のオフィスフロアと複合した空間で、ビジネスワーカーと地域住民と来街者が交流できる場を提供する。 「アートとビジネスをつなぐ新たな文化の拠点として、当社のブランドスローガンである『Build the Culture.人がつくる。人でつくる。』を具現化する施設だ」。開業前日に行われた記者向けの発表会で、大谷清介社長は芸術文化を重視する姿勢を強調した。
■展示物の入れ替えで鮮度を保つ 新本社ビルは隣接する「アーティゾン美術館」(旧ブリヂストン美術館)と一体で、都市再生特別地区制度を活用し、地域に開かれた芸術・文化拠点の形成を目指す。 1階にはアート作品に囲まれたカフェがあり、6階にはポップカルチャーや現代アートなどの多彩な領域のクリエーションを大空間で体感できるミュージアムを設置。美術品の陳列室も充実しており、3階には4つのギャラリーを備える。ギャラリーはオフィスワーカーや地域住民が無料で、それぞれ趣向の違ったアートを鑑賞できるようになっている。
新本社ビルの共用部で実施しているパブリックアートの展示作品は定期的に入れ替わるため、訪れるたびに新しい体験が可能となる。戸田建設・戦略事業本部の小林彩子統括部次長は「展示物を替えることで、ビルの新鮮さを保ち、不動産価値向上につながる」と語る。 さらに、ビルは連層耐震壁(コアウォール)など高い耐震性能を備えており、環境評価である「CASBEE」の最高ランクも取得している。オフィス棟のテナントは順調に埋まっているようだ。東京駅近くの京橋エリアという立地のよさに加え、建物の芸術文化機能や耐震性の高さがテナントに評価されているとみてよい。
JR東や戸田建設の動きの背景には、不動産市場の構造的な変化がある。従来は安定的な賃料収入を得る「コア投資」が主流だったが、金利が上昇する局面であることを受け、今後は戦略的に賃料収益を上げる「バリューアッド投資」が重視されるようになりそうだ。 首尾よく価値を高めた不動産は、金利上昇の影響を受けにくく、魅力のある不動産とそうでない不動産の二極化が進む可能性が高まっている。芸術や文化を通じて地域や社会とつながる新しいオフィスビルは、このような価値向上の手段として注目される。
梅咲 恵司 :東洋経済 記者