『虎に翼』制作統括インタビュー。出産場面や玉音放送を描かなかった理由、憲法のシーンに込められたもの
出産シーンを描かず、生理痛に苦しむシーンを描く脚本
―8週では寅子が母親になりましたが、出産シーンは描かれませんでした。ほかにも寅子や女性たちがしっかり怒りを表明したり、生理痛に苦しむ場面が描かれたり、朝ドラのこれまでのイメージと一線を画すような作品ではと感じています。そういった意図はあるのでしょうか? 尾崎:怒りの表出や生理痛の場面など、脚本の段階でこれを入れようとか、逆に入れないほうがいいという話はそんなにしていなくて、吉田恵里香さんに脚本を依頼したときから、そういうことが描かれるドラマになるであろうことは予想していました。女性の人生やキャリアを描くうえで、生理が描かれていることが自然と思える脚本なのは、吉田さんが書いているからこそだと思います。 出産シーンに関しても、どのシーンを描き、描かないかということは物語の流れで決まってきます。ストーリーやテーマをふまえて取捨選択をされています。 そこをゼロベースで思考したうえで脚本をつくりあげているのが吉田さんの素晴らしいところだと思います。
よね、花江。寅子のカウンターパートとなる登場人物について
―寅子と明律大女子部に通ったよねは男装をしています。この作品に男装する人物が登場する意義や考えは? 尾崎:脚本になる前の構想段階から、同窓生のよねという人物は男装をしていると書かれていました。当時、男装をして社会で働いている女性がいたという事例もあり、この物語でも社会のなかで戦うための鎧として男性の服装をしている登場人物を出すというアイデアが膨らみました。よねという人物のファイトスタイルというか、戦うことの象徴として男装をしているのだと思います。 ―よねというキャラクターは脚本の吉田さんの本音を代弁しているのではないかと感じます。 尾崎:すべての登場人物が吉田さんの分身でもあると思うのですが、よねという人物は、寅子にとってカウンターパートになるような人物です。花江もそうですが、寅子とはまた違うテーマを背負っている人物として描かれています。 尾崎:寅子は恵まれた家庭環境で育っているのに対して、よねはとても過酷な状況から立ち上がってきた。いろんなことが綺麗事に見えてしまうくらいに過酷なところから法律の世界に入ってきた人物です。キャラクターをつくる段階から、寅子の主張や思いに対して「そんな甘いもんじゃないんだよ」というようなことを言える人物として考えられていると思います。逆に、そういう存在だからこそ、寅子と一緒に歩んでいくべき人物でもある。 ―特に、「分身」という思い入れがあるわけではない? 尾崎:世の中の不条理に対する怒りをよねは背負っています。吉田さんの思いはいろんな登場人物に託されていると思いますが、「怒りというものをきちんと出していいんだ」「おかしいと思ったら声を上げていいんだ」という、よねがハッキリ出していることは吉田さんも思われていることだと思います。 ―ガイドブックのインタビューで、吉田さんは花江をもう一人の主人公のつもりで書いていると語っていました。花江に託した思いや役割についても教えてください。 尾崎:仕事を持ち、仕事に生きる寅子に対して、花江は家庭を守りながら生きる存在として当初から想定されているキャラクターです。寅子のような生き方も当然あるけど、花江のように家の中でさまざまな仕事をして生きることも当然肯定されるべき生き方であるということをしっかり描きたいという思いが吉田さんにあるのだと思います。 そういう思いを背負っている登場人物なので、花江も寅子と並走しながら人生を歩んでいきます。そういう意味でのもう一人の主人公的な存在であるのだと思います。