『虎に翼』制作統括インタビュー。出産場面や玉音放送を描かなかった理由、憲法のシーンに込められたもの
玉音放送のシーンがない『虎に翼』。「残された人にとってこの戦争は何だったのか」
―第9週で終戦を迎えました。『虎に翼』ならではの戦争の描き方や工夫はありましたか? 尾崎:いろいろあると思いますが、玉音放送のシーンがないことにはリアクションがあるのではないかなと思います。戦争をまたぐことが多い作品ではよく玉音放送が登場しますが、寅子にとって重要なところは、第1回の冒頭にも描かれた憲法のシーンではないかと。 どの作品でもそうですが、寅子や花江、お父さんなど、残された人にとってこの戦争は何だったのかということをしっかり描こうとしていると思います。 ―社会全体よりは個人にスポットを当てていきたいと。 尾崎:そうですね。個人に注目した結果、みんなでラジオの玉音放送を聞くシーンではなく、それぞれのところにある種の「知らせ」が届くところに焦点を当てる方向になったと思います。 ―作中でも戦争が描かれた期間は短めだったかと思いますが、どんな意図があったのでしょうか。 尾崎:このドラマは結構展開が早いと言われるんですが、第1回で描いた寅子が憲法を読むシーンが新たなスタート地点でもあるので、そこへ向かっていくという意味での長さとして、結果的にそうなりました。
「私の人生がここから変わると思った人がたくさんいた」 ターニングポイントとなった日本国憲法
―そのシーンを第9週(45話)で見ると、じつは焼き鳥の包み紙に書かれていたということや、寅子は夫も仕事もなくした状況だったということがわかり、第1話で見たときと違う考えが湧いてきました。憲法のシーンはどうできあがったのでしょうか。 尾崎:モデルの三淵嘉子さんが日本国憲法がターニングポイントだったと語っているラジオのインタビューがあるんです。当時の法律を学んでいた女性たちに共通のエピソードなんですが、日本国憲法が公布されたとき、それを読んで、「私の人生がここから変わるんだ」と思われた方がすごくたくさんいらっしゃったと。 三淵さん自身にとっても読んで涙が出るほどの人生のターニングポイントで、そこから裁判官になる道が開けていく。なので、このドラマの主人公の寅子にとっても憲法が人生における最も重要なポイントなんです。 第1回は憲法が読み上げられるだけですが、第9週では寅子にさまざまな出来事が起こり、いろんな感情がないまぜに、渾然一体になったうえでの涙だったことがわかるようになっています。三淵さんが語られているお話や、当時の女性法曹の話をヒントに、ドラマとして肉付けをして膨らませていきました。