「全く覚えていません」認知症の”所長”と弁護士資格を剥奪された”事務員”は裁判で罪を擦り付け合う…渋谷富ヶ谷6.5億地面師事件の舞台となった弁護士事務所の所長に課された「前代未聞の賠償」
今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。 【漫画】「しすぎたらバカになるぞ」…性的虐待を受けた女性の「すべてが壊れた日」 そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。 同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。 『地面師』連載第44回 『なりすましの偽造パスポートは「中国語でありえない発音表記」「外国籍なのに和暦」...渋谷富ヶ谷の6.5億不動産詐欺を招いた弁護士の単純すぎるミスは「不注意」か「確信犯」か』より続く
諸永の真実
地道が諸永を訴えた裁判では、被告の諸永自身の陳述書が東京地裁に提出されている。 〈訴訟事件に関する書類は私自身が作成する。已むおえない事情が発生して私が作成できない場合、(居候弁護士の)池下(浩司)氏及び吉永氏は元弁護士であるので両者が起案して私が目を通し、修正があれば修正し、そのままで良ければ了承する。(中略) 以上の基本体制で(弁護士事務所として)出発しましたが、出発して半年もしないくらいから、私の記憶力が徐々に衰え始めてしまいました。具体的に申しますと、以前の記憶はすぐに思い出すものの、近々に起こったことに関してすぐに忘れるということでした〉 諸永は70代後半という年齢のせいで記憶力が薄れ、認知症の検査を受けたことまで陳述書に記している。署名している文字もたどたどしく、本文もやや日本語の表現におかしな箇所が散見される。 〈本件につきましては何も(書類や証拠を)見ないで覚えているということはほとんどありません。 (中略) 本件にかかわる呉氏と称する人間の写真を見ますと見覚えがありますので、会ったことは間違いありません。ただ、時期、何回会ったか、どのような場面で会ったのか全く覚えていません。従って、誰と一緒に会ったのかも覚えていません〉 かなり頼りない。が、弁護士事務所の責任者としての自負はあるようだ。こう続く。 〈然し、言えることは例え訴訟事件でなくとも受任する際は私の了解はとっていること、出来上がった書類に捺印する場合(吉永が)必ず私に見せ、私が了解したので捺印していることは明言できると思います。 また、本件に関する代理受領の件も了解しており、依頼者の指示による送金も私が指示したはずですが、事務所の報酬等もいくらだったのか忘れています〉
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