「全く覚えていません」認知症の”所長”と弁護士資格を剥奪された”事務員”は裁判で罪を擦り付け合う...渋谷富ヶ谷6.5億地面師事件の舞台となった弁護士事務所の所長に課された「前代未聞の賠償」
裁判所が認定した前代未聞の賠償
つまるところ責任はあるが、取引窓口としての実務は事務員の吉永がおこなっていたと言いたいらしい。もっとも今になってそんなことを言い出された被害者の地道らにとっては、たまったものではない。裁判官も呆れ果ててしまった。 「被告諸永芳春こと齊藤芳春は、原告に対し、6億4800万円及びこれに対する平成27年9月11日から支払い済みまで年5%の割合による金員を支払え」 16年11月14日、東京地裁において、裁判長の日浅さやかは、主文でこう判決を下した。裁判所が地道たち原告側の請求を満額認める損害賠償命令を下したのである。まさに前代未聞の厳しい判決だ。諸永の本名は夫人の姓である齊藤だが、ビジネス上旧姓の諸永を名乗ってきた。裁判長はその被告諸永側による言い訳を次のように一蹴している。 〈被告諸永は、平成23年から現在に至るまで、物忘れ外来の診療に通っており、初診当初から認知症の症状が認められ、その症状は緩徐に進行している。そして弁護士資格のない吉永は、実質上、自分が弁護士としての業務を行うため、被告諸永の弁護士資格や弁護士事務所の社会的信用力をいわば道具として利用していた〉 いざ民事裁判になると、法律事務所の責任者である諸永と取引の実務を担ってきた吉永の蜜月関係が崩れた。仲間割れを始め、諸永は弁護士としての自らの当事者能力を否定し、すべてを吉永の責任だとしている。もっともそれは、あながち間違っているともいえない。地面師事件の舞台となった弁護士事務所のあり様でもある。 『大御所弁護士への「損害賠償命令」に実行犯の「逮捕」...弁護士事務所という「社会的信用」に乗せられて6.5億を騙し取られた渋谷区富ヶ谷地面師事件の「結末」』へ続く
森 功(ジャーナリスト)
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