日本では犯罪、中国では商才。小学生が発案した「当たりの存在しないくじ」に教師の評価が真っ二つに分かれたわけ
小学生の商売のからくり
次の縁日イベントの日、ソウはお手製のくじ引きを作って行った。 番号を書いた小さな紙に糸をつけ、紙の部分を中身の見えない箱に入れる。糸を3本引いて現れた数字の組み合わせが、1等賞から3等賞に該当すれば賞品がもらえるという設計になっていた。 縁日の後、「いやー、儲かった儲かった」とご機嫌で帰ってきたソウは、テーブルに小銭をじゃらじゃらと出した。お札もちらほら、合わせて50元くらいあっただろうか。日本食のレストランで、ちょっといい定食が食べられるお金だ。 「このお金どうしたの?」と聞くと、ソウは「くじ引きで儲けた」という。 「え? 本物のお金でやってたの?」 だいぶ中国マインドが身についていたとはいえ、根本はしっかり日本人の私は慌てた。小学校のイベントなのに現金でやりとりするなんて、生きた金銭教育と言えなくもないけど、怖いよー。ソウはさらに恐ろしいことを言った。 「当たりは1人も出なかった」 え、えーーーー。10歳のソウがどのくらい計算ずくだったのかはわからないが、当たりの出る確率をエクセルで計算してみると、1000分の3しかない。ソウは家からゲーム機を持ち出して、1等の賞品として子どもたちを釣り、1回5元でくじを引かせていた。中には何回も挑戦する子どももいたという。 ちょうどその頃、日本では高級ゲーム機の賞品で客を釣って当たりの存在しないくじを引かせていた露天商が詐欺容疑で逮捕され、ニュースになっていた。ソウのやっていること、日本ではほぼ犯罪じゃん。 私はソウに「商売は、相手も自分も幸せにならないと続かないよ」と、「買い手よし、売り手よし、世間よし」を理念としていた日本の近江商人の話をした。賞品を掲示しているのに、当たりを出さないで、お金だけもらうのは良くないことだと諭し、儲けたお金の一部で、次の縁日の賞品を準備するよう言い聞かせた。 翌日夕方、託児所にソウを迎えに行くと、先生たちが私を見るなり「縁日の話聞いたよ。ソウはほんと賢いね」「将来金持ちになるよ」と口々に褒めてくれた。 え……。 私が昨日ソウを説教したのに、中国の託児所では賞賛されている。近江商人の理念はここでは通じないのか。先生に褒められたソウは、私に遠慮しつつも嬉しそうにしていた。商売に多少の図々しさ、交渉力は必要だけど、日本でそれやったら「賢い」じゃなくて「ずるい」となるんだよ。その点だけは日中でダブルスタンダードを持つのではなく、日本基準に合わせてほしいと、平凡な日本人の私は願ったのだった。 浦上早苗:早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社記者、中国・大連に国費博士留学、少数民族向けの大学講師を経て現職。主な分野は中国新興企業、価値観・時代の変容と経済活動、マス向けコミュニケーション。近著に『崖っぷち母子 仕事と子育てに詰んで中国へ飛ぶ』(大和書房)『新型コロナVS中国14億人』(小学館新書)。