朝鮮戦争タブーの民間人虐殺調査、韓国の尹政権に遺族が懸念を抱くわけは 休戦70年の今も続く「親日派」論争
韓国政府は7月5日、朝鮮戦争で激戦地の戦闘を指揮した元軍人で、2020年に死去した白善燁氏の銅像の除幕式を主催した。保守層が「英雄」と呼ぶ白氏だが、植民地時代に日本のかいらい国家、旧満州国のゲリラ討伐部隊に所属していたため、文前政権下で国立墓地の記録に「親日反民族行為者」と記された。政府は7月24日、「最高の英雄の名誉を守る」として、この記録の削除を発表。保守層は歓迎するが、リベラル層は「歴史認識が偏っている」と反発している。 韓国政府は建国直後、悪質な対日協力者を調査する機関を設けたが、治安が悪化する中、十分な機能を果たせないまま1年で解散。韓国の軍や警察に対日協力の経歴がある人が多く残り、今もリベラル層が「親日派の清算」を問題提起する背景になったと言われる。 ▽複雑な思い抱える息子たち 父がこの機関の調査官を務めた金溶珉さん(89)も虐殺犠牲者の遺族だ。「夜中に韓国軍の5、6人が家に押し入り、父をはだしのまま連れ去った」。家族で暮らす南部の港町、統営近くまで北朝鮮が攻め込んできた当時をこう振り返る。北朝鮮の攻撃から逃れるため港に着けた船の中で、近くの倉庫に連行された父が「痛い」と拷問に苦しむように叫ぶ声を聞き続け、「その声が今でも時々聞こえる」という。
「父が調査官でなければ(対日協力者が含まれる韓国軍や警察ににらまれず)被害に遭わなかったのでないか」。金さんはそんな思いを抱える。 公営放送KBSの幹部を務めた沈宜杓さん(75)の父は植民地時代、日本留学中に独立運動組織をつくって投獄され、解放後は韓国南部・固城で社会主義系の政治活動をして収監、朝鮮戦争時に韓国軍に殺された。「戦争という緊迫した状況だった」と沈さんは父の虐殺を受け入れようとする。独立運動をした父を誇りに思うが「その父が反国家行為で捕まり、いなくなった」。複雑な気持ちが交錯している。