朝鮮戦争タブーの民間人虐殺調査、韓国の尹政権に遺族が懸念を抱くわけは 休戦70年の今も続く「親日派」論争
劉さんの父は植民地時代に「独立万歳」を叫ぶデモに参加して拘束された経歴があり、2019年に政府から「独立有功者」と認定された。だが、これを祝う横断幕を瑞山で掲げたところ、父が虐殺犠牲者であることを知る人が「アカ」だとののしり、横断幕を踏みつけたという。劉さんはそういう人たちと「和解し、互いに信じ合って暮らせる国になってほしい。そのためには名誉回復が必要だ」と訴える。 ▽良民か反逆者か 過去事整理委員会の調査ではこれまでに、韓国当局の虐殺による約1万5千人、北朝鮮側の虐殺による約5千人の民間人犠牲が確認された。だが韓国当局による虐殺は長くタブーだったため、被害を申告して調査を申請しない遺族も多く、正確な規模は不明だ。遺族会は約100万人と主張する。 委員会はリベラル系の盧武鉉元政権が2005年に設立した。保守政権下で約10年間活動が中断したが、リベラル系の文在寅前政権が再開させた。虐殺事件を調査し、犠牲者を「国家暴力の被害者」と認定することで名誉回復を図ってきた。
だが北朝鮮への強硬姿勢をアピールする保守の尹錫悦政権が昨年発足すると、委員会は北朝鮮側による虐殺の調査を強化。調査の申請件数は韓国当局の事件が北朝鮮側の事件を大きく上回るが、調査結果の発表は北朝鮮側の虐殺の方が多い。 政権側が推薦した委員らは「(死者が)純粋な良民なのか反逆者なのかを判別したい」と主張しており、遺族らは「犠牲者を悪者扱いしているようだ」と不安を抱いている。 6月下旬、中部・大田郊外の「骨霊谷」で行われた虐殺犠牲者の慰霊祭で、遺族会代表の全美暻さん(74)は「委員会は名誉回復を求める遺族の胸にむしろ刀を突き付けている」と訴えた。朝鮮戦争中、大田刑務所に収監されていた政治犯ら推定1800人以上が韓国軍などに殺され、この場所に埋められた。 ▽「英雄」の「親日行為」 尹政権は文前政権とは対照的に、対日外交で植民地支配を巡る歴史問題にこだわらない姿勢を打ち出してきた。国内でも、朝鮮戦争を指揮した元軍人を顕彰する一方、植民地時代の日本側への協力を不問に付すスタンスだ。