朝鮮戦争タブーの民間人虐殺調査、韓国の尹政権に遺族が懸念を抱くわけは 休戦70年の今も続く「親日派」論争
同じ民族同士が戦火を交えた朝鮮戦争の休戦から7月27日で70年となった。3年間にわたる戦争の犠牲者は民間人を含め数百万人に上るとされる。いまだに遺体が見つからないままの兵士も多く、捜索を担う韓国国防省の「遺骨発掘鑑識団」は6月に人気音楽グループBTSのリーダー、RMさんを広報大使に任命し、事業を推進する。 一方、理念対立が背景にあった戦争のさなかに多くの民間人が韓国軍や警察に虐殺された事実は長くタブー視されてきた。リベラル政権下の2005年に政府機関が調査を始めたが、保守の尹錫悦政権は慎重姿勢で、真相究明を求める遺族らは懸念を抱く。 虐殺を実行した当時の韓国軍や警察には日本の植民地統治機関で働いた経歴を持つ人も多く、「親日派」を巡る論争が今も続いている。(共同通信ソウル支局 富樫顕大) ▽溝に横たわる人骨 5月末、韓国中西部・瑞山郊外の小さな山を5分ほど歩いて登ると、深さ約1メートルの溝に60体余りの人骨が重なり合うように横たわっていた。
朝鮮戦争中に虐殺された民間人の遺骨発掘現場だ。韓国政府の人権侵害調査機関「真実・和解のための過去事整理委員会」が報道陣に公開した。委員会は瑞山周辺で1800人以上が「北朝鮮側に協力した疑い」で韓国当局に恣意的に殺されたと判断している。 朝鮮半島は1945年、日本の敗戦で植民地支配から解放された後、米国とソ連が南北を分割占領した。1948年に南に韓国、北に北朝鮮が建国し、武力統一を狙った北朝鮮が1950年に韓国へ侵攻、戦争が始まった。 勃発直後、北朝鮮が韓国の大部分を占領したが、米軍主体の国連軍の支援を受けた韓国が押し返した。統治者が入れ替わる際などに、韓国軍や警察は北朝鮮に協力的と見なした住民らを処刑し、北朝鮮軍や共産主義支持者は富裕層らを殺害した。 ▽「アカの家族」 瑞山で農民の父と兄が殺された劉昇雄さん(78)は「20年くらい前から堂々と(事件を)話せるようになった。ずっと隠れるように生きてきた」と打ち明ける。韓国当局による虐殺は1980年代まで続いた軍事政権下でタブー視され、遺族は「アカ(共産主義者)の家族」として、就職差別や当局の監視を受けた。