井上尚弥が「兄弟同時世界王者」を願う弟・拓真の現在地
プロボクシングの井上尚弥(29、大橋)がノニト・ドネア(39、フィリピン)を衝撃の2回TKOで倒して3団体統一を達成した試合のアンダーカードで弟の拓真(26)が自らが持つWBOアジアパシフィック・スーパーバンタム級王座をかけて日本同級王者の古橋岳也(34、川崎新田)に挑む“2冠戦”があった。ジャッジ3人中2人がフルマークをつける圧倒的な内容での判定勝利。拓真が狙うのは、兄の尚弥が4団体を統一した後にすべてが返上され空位となるバンタム級の世界ベルトだ。弟が伝説のベルトを継承する。
尚弥は「安心して見ていられた」と評価
井上はTシャツに「REBORN」と書き込んでいた。兄の尚弥がドネアと激闘を演じたあの日、WBC世界バンタム級暫定王者だった拓真はセミファイナルで、正規王者であるノルディ・ウバーリ(フランス)と統一戦を戦い、判定で敗れていた。 「約3年前にここで負けた。尚に最高のバトンを渡せなかった。いい再スタートを切るという意味でのリボーン(再生)。ここから世界へ向けてもっと強くなっていきたい」 そういう思いを込めて2年7か月ぶりの兄弟揃い踏みのリングに上がった。 古橋は、元日本王者の久我勇作(ワタナベ)との2度にわたる激闘を制してきたエンドレスな攻撃を持ち味とするタフでガッツのある日本同級王者。試合前の時点で38戦28勝(16KO)8敗2分けの戦績で、16戦の拓真の倍以上のキャリアを誇る。これまで2人は、20ラウンド以上のスパーリングを重ねており、お互いに手の内は知り尽くしていた。 結論から先に言えば、拓真は、そのブルファイターを完璧に封じ込んで、2つのベルトを手にした。ジャッジ2人が120-108のフルマーク。もう一人は、手を出し続けた古橋の攻勢を評価したのか、11ラウンドだけを相手につけて119―109の3-0判定勝利である。 ドネア戦に向けてアップを開始していた兄の尚弥は、控室のモニターでその試合を見ていた。拓真に関しては、常に辛口評価の兄は、「安心して見ていられた」と、そのフルマークの戦いを評価した。 それでも拓真は満面の笑みを浮かべなかった。 「適正階級よりも1階級上のファイターとやりあえた経験は、今後バンタム級に戻したときの経験値になる。今後につながる収穫。でも自分自身は満足していない。もっと完成形に近づいていかなくては。こんなところで満足していたら上へいけない。満足できるボクシングを早く作り上げていきたい」 満足できない点は、全ラウンドを支配しながらもKOというフィニッシュにまで持っていけなかったことだ。