拝金主義に嫌気をさしたファンは市民クラブを創設「観戦をみんなで楽しむ」地域社会に根差したチームを運営【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑦】
プレミアリーグの試合では、相手チームの選手がミスをするとファンがどっと沸くが、このスタジアムでは必要以上にやじる姿は見られなかった。普段は真面目に働き、週末に地元チームを仲間と応援する。ビールを飲み、ファン同士が交流する地域の共同体そのものが体現されている場所だった。 試合はFCユナイテッドが3―0で完勝した。試合後は選手がファンにあいさつに訪れ、子供たちとハイタッチを交わしていた。テラスでは犬も飼い主の横で試合を観戦し、試合後はピッチにある看板に前足をかけて選手を出迎えていた。 ▽スポーツのルーツに立ち返るクラブ クラブの広報を務めるマシュー・ヘイリーさん(42)は「サッカーが人気になったのは100年以上前で、その中心にいたのは労働者階級の人間だった。当時は週に6日か5日半働いていて、土曜の昼に仕事を終えた後はスタジアムやパブに行き、みんなで交流していた」と、サッカーが地域社会で重要な役割を果たしてきたと話す。
ただ、サッカーの商業主義が肥大化するにつれ、そうした伝統や文化が次第に失われてきたと危惧する。マシューさんは「このクラブは、スポーツ観戦をみんなで楽しみ、その一部でありたいと思う人たちのルーツに立ち返っている。このことこそが、このクラブの価値観だ。ピッチで勝ちたいが、それだけが目的ではない。地域社会に本当の意味で良い影響を与える存在でありたい」と強調した。 この日の試合のキックオフは土曜の午後3時だった。この時間帯はイングランドのサッカー界で特別な意味を持つ。下位リーグの観客動員数が減少するという悪影響を避けるため、海外のプロリーグを含むサッカーのテレビ放送が禁じられているためだ。このルールは「ブラックアウト」と呼ばれる半世紀以上続く伝統だが、収益性を重視するクラブからは解禁を求める圧力が高まっている。 アメリカ人投資家やクラブオーナーとイギリスの地元ファンとの価値観の相違は、なぜ起きるのだろうか。スポーツビジネスを専門とするロンドン大のショーン・ハミル教授はこう解説した。「ヨーロッパでは、スポーツは主に文化的な活動からビジネス的な特徴を持つようになった。一方、アメリカでは、スポーツは最初からビジネス活動であり、それが文化的な意味を持つようになった」