拝金主義に嫌気をさしたファンは市民クラブを創設「観戦をみんなで楽しむ」地域社会に根差したチームを運営【プレミアリーグ 巨大ビジネスの誕生⑦】
BスカイBによる買収計画の反対運動に参加した英オックスフォード大のジョナサン・ミッキー教授は「グレーザー家は十分な買収資金を持っていなかった。借金をクラブに転嫁できるのであれば、われわれにも同様の事ができた」と振り返る。ヘッジファンドの担当者とも当時協議したが「巨額の借金を返済するためにはチケット代を値上げせざるを得ず、われわれの本来の目的に反するという懸念が消えなかった」と打ち明ける。 ▽ファンが創設した「FCユナイテッド」 グレーザー家の拝金主義に嫌気をさしたファンは2005年に「独立」を宣言し、同じマンチェスターに市民クラブ「FCユナイテッド・オブ・マンチェスター」を創設した。一部のメディアから「クリスマスまでもたないだろう」と冷ややかな声も聞かれたというが、クラブは今も存続する。 本拠地のスタジアムは、マンチェスター中心部からバスと徒歩で約50分かかる郊外にある。週末に地元のファンが集い、再会を祝してビールを片手に談笑する。今年4月に取材でスタジアムを訪れると、そこにはサッカーを絆にした伝統的なイギリスの地域社会の姿があった。
チケット代は大人が13ポンド(約2600円)、18歳未満の小中校生は3ポンドと、今や高嶺の花となったプレミアリーグのクラブと比べて格段に安い。スタッフは普段別の仕事をしているボランティアが務め、選手も他の仕事を掛け持ちするセミプロだ。 特徴的なのは監督や選手とファンの近さ。試合前にはファンの食事会場に監督が姿を現し、チームの状況を解説する。試合中に選手が負傷すると、チームのシャツを来た子供たちがタッチライン際に駆け寄り「大丈夫?大丈夫なの?」と心配そうに声をかけていた。 ▽今も残るゴール裏のテラス席 スタジアムではサッカーが高度に商業化する以前の光景が見える。イギリス国内で雑踏事故が相次いだため、上位リーグでは廃止された「テラス」と呼ばれるゴール裏の立ち見席も設置されている。 「よし今だ。シュートだ!」「ほら、だからパスしろって言ったのに」。高齢者も子供も総立ちで大声を出し、応援歌を合唱して選手を鼓舞する。