ディフェンスから信頼を勝ち獲る飛躍の2年目(島根スサノオマジック ワイリー光希スカイ)
河村勇輝がNBAでのキャリアをスタートさせた、毎日のようにメンフィスからホットなニュースが届く。本拠地であるフェデックス・フォーラムから車で10分ほど東に行ったところに、ワイリー光希スカイが4年間プレーしたローズカレッジがある。入学当時の2019年は、同じメンフィスの地で渡邊雄太(現・千葉ジェッツ)がNBAでの2シーズン目を送っていた。 昨今、NCAAディビジョン1を見るためにはESPNに加入する必要がある。しかし、新規登録ができないエリアとして日本が定められて久しく、容易にゲームを見られない。しかし、それ以外は各学校やカンファレンスがライブ配信を提供することも多い。NCAAディビジョン3のローズカレッジも、ほとんどの試合を見ることができた。 アメリカのまとめサイトでワイリーを発見したのが、2年生のとき。190cmのガードに興味がわいた。ローズカレッジは2mを越える選手がおらず、一番小さい選手も180cm台。平均的な高さのワイリーはチームのオフェンスの起点だったとともに、世界的にガードは得点源でもある。4年間で平均12.7点、3ポイントシュート成功率は35.6%(85/239本)。ローズカレッジでは、安藤誓哉のようなプレースタイルでチームのファーストオプションだった。 ディビジョン3は25試合前後行われ、3~4年次はすべての試合で先発出場を果たす。4年次の2022-23シーズンは、ローズカレッジが所属するカンファレンス(サウザン・アスレチック・アソシエーション)においてリバウンド2位(平均7.4本)、アシスト5位(平均3.2本)の成績を残し、その年のオール・ファーストチームに選ばれている。ディビジョン3の評価は分かれるが、アメリカで揉まれた190cmのビッグガードをBリーグで見たい。その願望を叶えてくれたのが島根スサノオマジックである。
ディフェンスからプロとして戦う装備を収集
ルーキーシーズンは、ローズカレッジ4年次と同じく25試合に留まる。平均6分47秒出場し、1.7点。「昨シーズンはいろんな見たことのないフォーメーションやスピードもとても速くて、自信を持ってプレーすることができませんでした」と日本のスタイルに馴染むには時間を要する。アメリカとは違うバスケに、自らをうまく表現できなかった反省点を踏まえ、オフの期間はドイツで武者修行を行ってきた。 「体のコンディションを上げ、シュートもいっぱい打ちました。昨シーズンはシュート率(25.4%:16/63本)があまり良くなかったので、その練習を集中的に行っていました。あとは、もうちょっとハンドリングができるように、いろんな練習をしてきました」 ポール・ヘナレヘッドコーチは、ワイリーについて「チームのベストディフェンダーである白濱(僚祐)選手がケガで離脱している現状だが、彼がこのチャンスを自分のものにしながら順調に成長できている」と評価する。「チームには得点力がある選手がいっぱいいるので、今はディフェンスに集中しています。ディフェンスとリバウンドをまずはがんばって、プレータイムを伸ばしていきたいと思っています」とワイリー自身も理解し、与えられた役割を全うしながら信頼をつかんでいく。 11月最初の宇都宮ブレックス戦では、Wエースであるディージェイ・ニュービルと比江島慎を相手に、次々とマッチアップしていた。「ニュービル選手のようなMVPプレーヤーを1人では止められないことは分かっています。まず自分の仕事をして、抜かれても後ろの4人が助けてくれるという考えで集中してディフェンスをしていました」と11月2日の初戦は、出場していた10分49秒はマッチアップしたエースたちに得点を与えていない。結果は58-72と14点差で敗れ、島根が終始追いかける展開だった。そのため出場時間の得失点がマイナスになる選手が多い中、納見悠仁とともにワイリーは+2を記録。フリースローを1本落とし、速攻を決め切れなかったのが悔やまれ、実質+5の活躍だった。 ディフェンスに期待するのはワイリーだけではなく、昨シーズン中からヘナレヘッドコーチはチーム全体の課題として指摘し続けていた。相手に100回攻撃された場合の平均失点を数値化するディフェンスレーティングではリーグ15位と低迷し、チャンピオンシップ出場にあと一歩届かなかった。シーズン開幕からディフェンスの改善が早くも数字に表れている。宇都宮戦の前までは、ディフェンスレーティングが99.6とリーグ2位。むろん、西地区首位として(8勝)1敗しかしていなかったことで、当然その数字も良くなるものだ。連敗した宇都宮戦後、102.1と失点が上がったがリーグ4位と上位グループを維持し、昨シーズンの110.5より失点を抑えられている。その一役を担っているのがワイリーの成長であり、飛躍の2年目が期待される。 今、大学時代に見てきたプレースタイルとは異なるが、「まだ2年目の若い選手なので、まずはディフェンスからプレータイムを勝ち獲って、そこからオフェンスでも活躍できるようになれれば良いかなと思っています」とワイリーは慌てていない。昨シーズンとは打って変わって毎試合コートに立ち続けており、プロとして戦う装備を一つずつ集めている。
泉誠一