アーティストたちの沈黙の対話から生まれたダイナミズム
両足院で繰り広げられるアーティストたちの対話
本展「黙: Speaking in Silence - Bosco Sodi & Izumi Kato」は、長年にわたり友情を育んできた2人のアーティスト自身の構想と企画により実現した。特別拝観日以外ふだんは非公開の大書院と、桃山時代に作庭された苔の美しい方丈前庭、さらにそれを抜けたところにある池泉回遊式庭園と茶室に、彼らの作品がいい塩梅で配置されている。あいにく訪れた日はそぼふる雨を縫っての鑑賞だったが、むしろそれが絶妙の状況をつくり出していた。 【写真を見る】メキシコ出身のボスコ・ソディと加藤泉の展覧会が京都の古刹、両足院で行われている。ともに国際的なアートシーンで高く評価される2人に、“以心伝心”の関係が培ったプロジェクトについて聞く。 ボスコ・ソディの金色を施した石の彫刻は、しっとりと濡れた庭の景観が歩みと共に変化するにつれ、キラリと光を反射して控えめに存在を示す。石の上にちょこんと腰かけ、植栽の中に屹立する加藤泉の彫刻群は、池の水紋に目をやりつつ沈思黙考しているようだ。また書院の床間や縁側では、掛け軸と彫刻をたがいに持ち寄り、静謐かつどこか物言いたげなインスタレーションを展開している。いずれの作品の佇まいも淡々としているが、内に閉じて完結するのではなく、周囲の事象や環境に対して開かれているように感じられた。
言葉を超えた友情が実現した有機的な展示
メキシコとニューヨークを拠点とするボスコ・ソディは、土や岩、木といった自然の素材と対話し、土地の地理的・文化的条件との関係性を探りながら力強い作品を制作してきた。本展にあたり、彼はこの寺に数日間逗留したという。僧侶たちと坐禅や生活を共にしながら、この空間に満ちる気の流れや叡智を捉えようとしたのだ。「作品と空間が有機的に響き合うことを心がけました。この寺院の持つシンプルかつ複雑な美に拮抗しようとしても無駄なのです。ただリスペクトするのみです」とソディ。また加藤との“以心伝心”の間柄についてもこう語る。「2007年に知り合って以来、ほとんど言語を介さずとも通じ合う関係を築いてきました。それが本当の友だちというものではないでしょうか?」 本展の庭園での展示に関しても、「本能的に」(ソディ)、「うなづき合いだけで」(加藤)、たがいの作品の配置を即興的に決めていったそうだ。 一方、東京と香港を拠点とする加藤泉は、無垢な幼児を思わせる人の形をモチーフとした具象的な絵画や立体を手がけ、国際的に高く評価される。近年は布や石、金属など多様な素材を用いた彫刻作品にも取り組んでいる。 「ホワイトキューブの展示に飽きてきたところでもあるし、楽しいですね。ボスコは常に何かと相談しながら制作する作家で、今回も2人の関係性から生まれた展示といえます。メキシコと日本は、年に一度帰ってくる死者を迎える習慣など、文化的に共通する部分があるように思います」と加藤はいう。