「私は生き方ではなく守り方を間違えた」携帯電話の充電コードで愛する9歳の息子の首を絞めた母親 裁判で浮かび上がる苦悩と葛藤
■「ママへ」法廷で読まれた息子からの手紙 法廷では弁護側から息子が被告に宛てた手紙が紹介された。 「ママへママと会えなくて寂しいけど(中略)ニコニコですママもニコニコしていてね」 手紙が読み上げられると涙ぐむ裁判員の姿も見受けられた。 現在、息子は児童養護施設で元気に生活しているという。「もともとペーパークラフトなど1人で遊ぶことができる子だったけど、今までに聞いたことがなかった野球に興味を持ったと聞いて成長したなと思いました」(被告) ■検察側が殺人未遂事件としては異例の保護観察付き執行猶予を求刑 29日の論告で検察側は「たった1人の頼れる存在の母親に首を絞められて将来の育成に悪影響を与える可能性がある」、「子供を一人で残してはいけないという一方的な考えで犯行は身勝手というほかない」としつつ「被害者である息子は被告と生活することを望んでいる」として懲役3年、保護観察付きの執行猶予を求刑。 一方、弁護側は「被告は不眠症やパニック障害、適応障害で肉体的にも精神的にも追い込まれていた」「二度とこのようなことを起こさないためには治療と支援が必要」と主張し、執行猶予付きの判決を求めていた。 裁判長から最後の意見があるかと尋ねられた被告は「一番苦しいのは息子に手をかけてしまったことで私の存在を少し悲しいものにしてしまったことです」。 さらに「この日まで経って生きていけるのは手紙にあった『ママに会えなくて寂しい』という優しい息子の存在がまだあると思うから。私は『生き方を間違えたのではなく、守り方を間違えた。』これからも大好きな、愛する息子と生きていきたい」と述べた。 ■保護観察付きの執行猶予判決裁判長は「焦りは禁物です」と被告を諭す 30日、福岡地裁の冨田敦史裁判長は「被害者を残しておけないという思いから無理心中しようとしており、一方的な考えで子の命を奪おうとすることは許されるものではない」と指摘。一方で「両親の施設入所を機に不安や孤独感を深め、精神状態を悪化させた経緯を見ると被告人だけにその責任を負わせることはできない」として、被告に懲役3年、保護観察付きの執行猶予4年の有罪判決を言い渡した。 最後に冨田裁判長は被告に対し、静かに諭した。 「きょうの裁判の結果で、社会の中で人生をやり直すことになります。一日も早く息子さんと暮らしたいと思っていると思います。住まいと仕事を見つけることは大事です。でも、焦りは禁物です。まずは息子さんの気持ちを一番に考えてください。息子さんにとっては大変ショックな出来事だったと思います。自分では気づけない心の傷が残っているかもしれません。息子さんが受け入れられるようになるには、児童相談所の専門家の力を借りる必要があると思います。一緒に暮らせるようになるには時間が必要でしょうし、あなたの心や体の状態を安定させる必要があるでしょう。新しい生活を送るには専門家に相談しながら焦らずゆっくり進んでください」
■裁判を傍聴して 被告はこれから更生保護施設に入り、新たな生活を送るための準備を行うことになる。不眠症などの治療を受け、将来的に息子とともに過ごす日々が戻ることだろう。無理心中を図って最愛の息子を殺害しようとした今回の事件。被告が犯した罪は決して許されるものではない。 しかし、周囲に悩みを相談しにくい環境下で、被告が発していた「SOS」を感じとり、支援の手を差し伸べることができれば、最悪の事態は防ぐことができたのではないか。 同じような事件を防ぐため、どんなに弱く、小さな「SOS」にも敏感に反応し、救いの手を差し伸べることができる社会が求められている。 (RKB毎日放送記者 小松勝)
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