AIモデル開発/ファインチューニングで起こり得るGPUのメモリ不足を解消するアプローチ
ファインチューニングのコストを下げる方法
AIモデル開発やファインチューニングにおけるコスト課題に対し、ソフトウェア面での最適化により、限られたリソースでも効率的にAIモデルを訓練する方法が注目を集めている。 その代表的な手法の1つが「混合精度訓練(Mixed precision training)」だ。これは、低精度のb/float16演算と標準的なfloat32演算を組み合わせることで、計算速度とメモリ使用効率の向上を目指す手法。ここで登場する「b/float16」や「float32」は、コンピュータが数値を表現する方法を指す。「float32」は32ビットの浮動小数点数で、より精密な計算が可能だが、メモリを多く使用する。一方、「b/float16」は16ビットで表現するため、精度は若干落ちるものの、メモリ使用量は半分で済み、計算も高速化できる。この方法により、AIモデルの訓練時間を短縮しつつ、使用するGPUメモリも削減できる。このアプローチは、特に大規模な言語モデルの訓練やファインチューニングで効果を発揮する。モデルの大部分を低精度で計算しつつ、精度が重要な部分のみ高精度で計算することで、性能を落とすことなく効率化を図れるのだ。 もう1つの重要な手法が「アクティベーションチェックポイント」である。これは必要最小限の値のみを保存し、他は必要に応じて再計算する方法で、メモリ使用量を最大70%削減できる。「アクティベーション」とは、ニューラルネットワークの各層で生成される中間的な計算結果のことを指す。通常、これらの結果はすべてメモリに保存されるが、大規模なモデルではこれが膨大なメモリを消費する原因となる。アクティベーションチェックポイントは、全ての中間計算結果を保存せず、必要な時に再計算する方法だ。長い数式を解く時、全ての途中経過を書き留めるのではなく、重要なポイントだけメモを取って後で必要な部分を計算し直すようなイメージといえる。 具体的には、ネットワークの特定の層(チェックポイント)でのみ結果を保存し、それ以外の層の結果は必要に応じて再計算する。これにより、メモリ使用量を大幅に削減できるが、一部の計算を繰り返す必要があるため、計算時間が若干増加する傾向がある。しかし、多くの場合、メモリ使用量の削減によって得られるメリット(より大きなバッチサイズでの訓練や、より大規模なモデルの使用が可能になるなど)が、計算時間の増加を上回る。特に、GPUのメモリが限られている環境では、この手法が非常に有効になる。 さらに、複数のGPUを同時に使用する「マルチGPU訓練」も効果的だ。大きな仕事を複数の人で分担して行うように、計算作業を複数のGPUで分担して処理する。これにより、従来の手法と比較して最大10倍以上の高速化が可能となる。 これらの基本的な最適化手法に加え、より高度な技術も開発されている。たとえば「カーネルフュージョン」は、複数の小さな計算作業を一つの大きな作業にまとめる方法だ。また「動的パディング」は、データの長さを効率的に調整する方法で、GPUのメモリ使用量を下げることが可能となる。「適応的学習率スケジューリング」も重要な技術の1つ。これは学習の進み具合に応じて、学習速度(学習率)を自動的に調整する方法だ。 これらの最適化技術を組み合わせることで、限られたリソースでも効率的にAIモデルのファインチューニングを行うことが可能となる。特に、中小企業やスタートアップにとっては、これらの技術を活用することで、高額なGPUリソースを必要とせずにAIモデル開発/ファインチューニングに取り組める可能性が広がっている。