相次ぐ拉致報道 なぜ「イスラム国」は外国人を拘束するのか
突然の事件というのは、実は突然でない場合が多いのです。その多くは、深い背景を有しています。最近になって報道が増えてきた「イスラム国」による外国人の拉致や処刑もそうです。 【地図】シリア・イラクにまたがる「イスラム国」の活動領域
シリア内戦やアブグレイブ刑務所の記憶
背景として理解しておかなければならないのは、イスラム国が拠点とするシリアでは、2011年以来の激しい内戦で20万人が死亡したと推定されている点です。政府軍と反政府勢力による、残虐行為の映像がネットにあふれています。 またイラクでも、2003年のイラク戦争以降、数々の残虐行為が行われてきました。アメリカ軍の管理していたアブグレイブ刑務所でのイラク人収監者を辱める映像が流出した事件は、イスラム教徒によって鮮明に記憶されています。イスラム国による外国人の拉致や処刑が伝えられるシリアとイラクでは、こうした残虐行為がもう何年も日常的に繰り返されてきたのでした。
イスラム過激派が拉致する狙い
それではイスラム国を始めとするイスラム過激派はなぜ外国人を拉致するのでしょうか。それは人質として多額の身代金が期待できるからです。『ニューヨーク・タイムズ』紙によれば、過去5年間に105人の欧米人がイスラム急進派に人質に取られました。そして解放のためにおよそ125億円が支払われています。これが急進派の重要な資金源になっています。 もちろん、どの国も公式に身代金の支払いは認めていません。しかしフランス、スペイン、ドイツ、オーストリア、イタリアが実際には支払ってきました。アメリカとイギリスは身代金を支払わない方針です。その結果、アメリカ市民の人質は全体の6パーセントにしか過ぎません。人質にしても身代金が取れないからでしょう。身代金の支払いが、過激派の活動資金源になっているとアメリカやイギリスは、ヨーロッパ大陸諸国を批判しています。身代金の支払いは同盟国間での対立要因となっています。
残虐行為は何を狙っているのか
さてイスラム国の場合、拘束したアメリカ人を残虐に処刑し、その映像を公開しています。何の効果を狙っているのでしょうか。もちろんアブグレイブ刑務所などでのアメリカによるイスラム教徒の虐待への報復という意味があるでしょう。また、イスラム国に逆らえば、どんな目にあわされるかしれないという恐怖心を人々に植え付ける効果があるでしょう。
さらに、その残虐性ゆえにイスラム国に惹き付けられる若者も多いようです。その行為に「本物のイスラム」を見る異常な心理が、一部のイスラム教徒の間にあるようです。 しかし、この組織をアルカーイダが破門したように、その余りの残虐さは多くのイスラム教徒に批判されています。また残虐な処刑が、オバマ政権にとっては、イスラム国の部隊を爆撃する根拠となっています。こんな残虐な勢力を攻撃するのは当然だろうという議論です。 (高橋和夫・放送大学教授)