【内匠宏幸氏】岡田彰布が評価する渡辺諒の打撃「代役」の存在が命運握る
連敗を止めた6月16日のソフトバンク戦。最後までハラハラの戦いだった。 1回表、前川の満塁ホームランで刻んだ4点。ここからまったく得点できない阪神打線だった。マウンドには才木。4点あれば十分と思ったが、いまの野球では4点差はワンチャンスで「逆」られる。相手はソフトバンク打線だ。 【写真】渡辺諒に何かをささやく岡田監督 9回裏、岩崎がマウンドにいた。打順は3番から。安心はできない。この回、先頭の栗原をもし出せば、山川、近藤…が待ち構えている。そして栗原のバットから快音が。強い打球が一塁線を襲う。二塁打を覚悟した。だが、次の瞬間。渡辺諒が倒れこみながら、反応していた。捕球したあと、立ち上がり、トスするか迷いながら、自ら一塁ベースに駆け込んだ。 1つのアウトが尊いものになった。これで逃げ切れるとわかった。それほどのワンプレー。渡辺のひたむきな守備だった。 そういえば甲子園でのゲームでも、彼はファウルボールを追い、カメラマン席に落ち、途中退場していた。慣れない守備だが、何とかする、という覚悟が伝わってきた。 佐藤輝が不振で2軍落ちした際、監督の岡田彰布は渡辺を三塁で起用。バッティングで貢献し、「一番状態がいいのが渡辺よ」と岡田から高く評価された。 すると次は一塁である。大山が極度の不振で離脱する。佐藤輝が戻り、渡辺は一塁を守る。大山、佐藤輝の「代役」は、打撃でも、守りでも、キープレーヤーになった。 日本ハムからトレードで阪神にきて2年目。1年目の昨年は目立たなかった。2年目も1軍か2軍かのギリギリの立場だったが、まさに代役としての存在感を示すチャンスが待っていたのだ。 こういう選手がいて、チームは動いていく。ポッカリと空いた大きな穴を埋める。それをスムーズに移行できるチームは強さを保てる。渡辺がいなければ、阪神はさらなる窮地に陥っていたに違いない。 海の向こうからニュースが飛び込んできた。ドジャースのベッツが死球を受け、手を骨折したというもの。チームの顔の離脱は大きな不安になる。そこを補うのも強いチームの証しでもある。阪神もそうだ。同じショートの木浪が死球で骨折。長期離脱は避けられぬ事態になった。そこを今後、小幡が補っていくが、もちろん、そこに補充が必要になる。岡田はどう考え、どう対処していくか。2軍には若さを誇る有望な若手内野手がいる。彼らのうちのひとりを1軍に上げるのか。 これから先、暑い夏を迎え、ペナントレースは消耗戦を迎える。チームとしてバテた方が脱落していく。そしてケガや故障が大きな敵になる時期になる。不可抗力、仕方がないという中、そこに補完戦力が整っているかどうか。これも大きなポイントになる。渡辺のような強い代役が、チームの命運を握ることになる。【内匠宏幸】(敬称略)