公立小「子どもが1000人の大人と会う」授業の効用 若手起業家教員で注目の小泉志信先生の挑戦
学校風土やコミュニティ・スクールの存在も後押しに
――教員4年目、異動したばかりの小泉さんが、これだけ大きなプロジェクトをやり遂げることができた要因とは? 「板橋第十小学校にいたから、やり遂げることができた」と言っても過言ではありません。2023年度、板橋第十小学校では、冨田和己校長先生のもと「探究する子の育成」が研究主題でした。これらの研究の中で、「板橋第十小学校の研究を面白くする会(IKO)」という有志の教員によるプロジェクトチームが生まれました。 僕もこのメンバーの一員になり、赴任当初は何をしてよいかわからず周りを見回す感じだったのですが、同じ学年の先生が「やりたいことをやってみてください」と。もう1人の当時2年目の先生も「皆さんについていきますよ」と、背中を押してくださったんです。 これをきっかけに「子どもたちのためにできることは何だろう」と改めて考え、IKOの本プロジェクトのリーダーとなってプロジェクトを進めていきました。「人(大人)が集まらない」「この取り組みは本当に子どもたちのためになるのか」など、ピンチや試行錯誤も数え切れないくらいありましたが、校長先生はじめ、学年の先生方、周りの教職員の方々の理解や協力のおかげで最後まで走り抜くことができました。 ――板橋区は「板橋区コミュニティ・スクール(iCS)」を推進しているそうですね。板橋第十小学校iCSの協力体制もあったのでしょうか。 「大人」を集めるための呼びかけから、「SHIBUYA QWS」での発表会の日の子どもたちの引率まで、iCS委員の方々にはさまざまな形で協力いただきました。学校に100人の大人を集めたときは、保護者の方が、来てくれた大人の方にふるまうカレーを作ってくださったんです。手前味噌になりますが、「地域の方と保護者の方が中心となって子どもたちの学びを支える」ということを体現していて、本当に素敵な学校だと思います。
「起業家教員」としてのキャリアを実践に生かす
――教員1年目に「一般社団法人まなびぱれっと」を設立した理由を教えてください。 学生時代から「せんせいのたまご」という団体を立ち上げ、多様な方々と交流していました。しかし教員になってから、学校外の居場所がないことを実感し、教員志望の後輩からも同様の不安の声が聞かれたのです。 教員をしながら起業して社会との接点を作り出すロールモデルが必要だと思い、あえて1年目で起業しました。「一般社団法人まなびぱれっと」では、「『せんせい』と『みんな』が安心して混ざり合う未来を」をミッションに掲げ、教育を軸とした学びやイベントを実施するオンラインコミュニティの企画・運営に加え、教育に興味がある学生コミュニティのサポート、教師教育、自治体や民間企業のサポートなどを行っています。 ――起業家教員としてのキャリアが、今回のプロジェクトにどのように生かされたと感じていますか? 信頼できるビジネスパートナーの方々をゲストティーチャーとして授業に招く機会を多く創出できたのは、起業家としての広い人脈によるところが大きく、その点では貢献できたのではないかと思います。起業家としての経験により、「SHIBUYA QWS」とのご縁も生まれました。 また、2学期のプロジェクト学習では、複数の企業とコラボしながら実践を進めたのですが、起業家と教育者、2つの視点から企業さんのニーズを理解したうえで学校教育とマッチングできたことには大きな価値があると思っています。 ただ、企業と打ち合わせを重ねながら、子どもたちのより深い学びにつながるアプローチを探ったのですが、企業の求める学びと子どもたちの現状に合わせた学びのチューニングは思いのほか難しく、教員が持つ専門性の大切さを改めて実感しました。