なぜ福士は銅メダルを獲得できたか
気温27度と暑い条件でスタートした世界陸上初日の女子マラソン。いきなりトップに立ってレースをリードしたのは、レース前から「暑さにも強いので積極的に行く」と噂されていたというベレリア・ストラネオ(イタリア)だった。最初の5キロを17分05秒で入り、17分07秒、17分11秒とラップを刻む走りは強烈だった。暑さに弱いケニア選手やエチオピア選手も無理をしたものから脱落していくなか、中間点を過ぎて25キロ手前になると、アフリカ勢も前回優勝のエドナ・キプラガト(ケニア)と2時間21分01秒を持つメセレチ・メルカム(エチオピア)だけ。その中に軽快に走る福士加代子も残っていたのだ。 福士を指導する永山忠幸コーチは、2週間前には欠場しようかどうか迷っていたという。3月にインフルエンザになってからは1ヶ月ほど練習もできず、野口みずきと一緒に練習をしたボルダーやサンモリッツでも貧血症状が出ていて、それがまだ完治していない状態だったからだ。だが福士はそんな苦境の中で開き直れた。 「サンモリッツで合宿をした時、何で私はこんなに頑張っているのだろうと思ったんです。でも、『そんなことに悩んでも、これ以上にもならないしこれ以下にもならない』と思ったら力みも抜けたんです」 マスコミの目は野口みずきや木崎良子に向いていた。その中でプレッシャーを受けていなかった福士はレースに臨んでもペースなどの細かいことは考えず、30キロまでは楽について行って入賞できれば十分という気持ちで臨んだのだ。ストラネオが作ったペースが、福士がちょうど楽に走れるリズムだったのも幸いした。 そんな気持ちだったため、29キロ過ぎできつくなって3人に離された時も、ショックはなかった。「4位になれるかもしれない。だからあとは景色や応援してくれる人たちを見て楽しみながらいこう」と開き直れた。だがそうすると今度は、27キロ過ぎで先頭争いから脱落したメルカムの姿が大きくなってきた。 「もう無理だと思っていたのに、前から落ちてきたので。あれって本当に元気になるんですね。今まで抜かれてばかりだったけど、マラソンで初めて人を抜きましたよ。でも3位になったことはわかったけど、多分私はまた誰かに抜かされるんだろうなと思っていました」 こう言って笑う福士だが、最初から最後まで何も狙わず、リラックスして走れたことが銅メダル獲得へとつながった。