猫と本好きにはたまらない。じっくりと愛でたい大賞受賞作(レビュー)
「日本ファンタジーノベル大賞2024」の大賞を受賞した宇津木健太郎の『猫と罰』。文豪と猫がモチーフのほのぼのした物語が、やがて人間の営みと創作との関わりを浮かび上がらせる壮大な展開へと繋がっていく。 猫には九つの命があると言われる。語り手の黒猫は、三度目の生で夏目漱石に可愛がられ『吾輩は猫である』のモデルとなったが、その前後の生では飢饉の時代や高度成長期などの社会的状況を背景に、人間によってひどい目に遭わされてきた。そのため野良猫として九度目の生を受けた時、人から距離を置いて生きていこうとする。が、ひょんなことから小さな古書店「北斗堂」にたどり着く。そこにはすでに四匹の先住猫がおり、店主の女性はなぜか、猫語を理解している様子。 個性あふれる先住猫たちもみな、過去世で作家に飼われた経験がある。誰がどの実在の作家に飼われていたのかが徐々に分かってきて、それもまた楽しい。猫視点のため必ずしも作家名に言及されるわけではないが、ちょっと調べればすぐ分かるはずだ。そんな彼らが古本に囲まれた環境で自由気ままに振る舞う様子が、猫好きにはたまらない。 だが、店の常連客の少女が自分で書いた小説を持ち込むようになると、その原稿を読むたびになぜか店主は動揺して涙を流すようになる。実は店主は、神様からとある「罰」を受けている身。それも物語の創作に関わることなのだ。そんな事情を知って、黒猫が起こした行動とは? 誇り高く毅然と、人間と神、そして“物語”に対峙していく姿がなんとも頼もしく、愛おしい。 著者は二〇二〇年にホラー作品『森が呼ぶ』で第二回最恐小説大賞を受賞し、すでにデビューを果たしている。話運びや描写力に安定感があり、今後の活動にも期待大。表紙や本文中の猫のイラストも可愛く、じっくりと愛でたい一冊である。 [レビュアー]瀧井朝世(ライター) 1970年生まれ、東京都出身、慶應義塾大学文学部卒業。出版社勤務を経てライターに。WEB本の雑誌「作家の読書道」、文春オンライン「作家と90分」、『きらら』『週刊新潮』『anan』『CREA』などで作家インタビュー、書評、対談企画などを担当。2009年~2013年にTBS系「王様のブランチ」ブックコーナーに出演。2017年10月現在は同コーナーのブレーンを務める。 協力:新潮社 新潮社 週刊新潮 Book Bang編集部 新潮社
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