選択的共同親権の制度導入で忘れてはいけない「子どもの利益」
◇法定養育費制度は障害のある子どもを考慮すべき また、今回の法改正で養育費についての規律に変更があった点も、今後重要な論点になるべきだと思います。 もともと養育費については、父と母の双方が話し合いの上で金額等を決定し、子どもを監護している方へ他方が支払う流れになっていました。しかし、そもそも話し合いに応じなかったり、取り決めた後で養育費の支払いを拒否するという実態があり、これまではその場合、家庭裁判所への家事調停や強制執行の手続きをとるといった手段がありました。 この度の法改正では、養育費の取り決めをせずに離婚した場合も、法務省の省令で定められた一定の額の養育費を請求できる「法定養育費制度」が設けられました。また、養育費の不払いについては、他の債務よりも優先して弁済を受けられる「先取特権」が認められました。これによって、たとえば養育費不払いの親の給料を早期に差し押さえることができるようになります。 法定養育制度も先取特権もある意味では子どもの権利性を強化する法制度ですから、それ自体は私も賛成ではあります。しかし、私は障害者福祉にも携わっていますが、障害を持っているお子さんは法定養育費では足りない場合が生じるおそれがあります。 これから省令で法定するに際しては柔軟に幅を持たせることが必要で、特段の事情が認められれば容易に増額できるようなシステムにすべきです。逆に法定養育費制度が「最低額を法定しているのだから、とりあえずは我慢しなさい」という態度になってしまうと、制度の反作用のほうが強くなってしまいます。今後どうなっていくかは現時点では未知数ですが、民法だけではなく社会福祉も拡充させて広くカバーすることが期待されます。
◇第三者交流が子どもの負担にならないか考えてほしい さらに、法改正による第三者の子との交流に関する変更点についても、十分に子の利益が考えられているか注意する必要があります。 法改正前は、離婚した後の子どもとの面会交流について、当事者間の話し合いで了解が得られずに裁判所に判断を仰ぐ場合、家庭裁判所が審判できるのは子の父と母に関してのみでした。他方で、親権者ではない方の祖父母などが子(孫)に会いたいという一定のニーズもありました。 改正法では、「過去に当該子を監護していた者に限る」という条件つきで、「子の利益のために特に必要があると認めるとき」に限って、家庭裁判所が父母以外の親族にも交流を実施する旨を定めることができるようになりました。 この第三者交流を認めたことについては法律がニーズに応えたわけですが、場合によっては、子どもにとって負担になる可能性があることを考慮するべきではないかと私は思います。 この場合もやはり、純粋に子どもの方が会いたいというよりかは、家同士の競争に利用されるような可能性がないとは言えません。実際、私は弁護士として経験があるのですが、「親権者の祖父母は孫に毎日のように会っているのに、われわれが会えないのはおかしいから面会したい」というような相談をしばしば受けます。ですが、はたしてそれは「子どものため」の要求なのでしょうか。 今回の法改正では、子の監護に要する費用負担や面会交流などについても、「子の利益を最も優先して考慮しなければならない」との理念が明記されるようになりました。それ自体はよい、というか当たり前のことなのですが、やはり実際の法律の建て付けを見ると、離婚後の共同親権や第三者交流などには、十分に子どもの目線が入っていないように私には感じられます。 法改正にまつわる一般の議論にしても、子どもの利益の話がほとんど優先されていない現状も含めて、子どもの権利の理解に関して、日本社会はより成熟する必要があるように思われます。
平田 厚(明治大学 専門職大学院 法務研究科 教授)