「公平にケーキを切り分ける」ための法的思考とは? 田中角栄元総理に学ぶ、他人をうらやましいと思わずに済む分け方
田中角栄元総理の羊羹の分け方
この点、ケーキの分け方ではありませんが、田中角栄元総理の羊羹の分け方に関する有名なスピーチがあります。 「子供が十人おるから羊羹を均等に切る。そんな社会主義や共産主義みたいなバカなこと言わん。君、自由主義は別なんだよ。(羊羹を)チョンチョンと切ってね、一番ちっちゃい奴にね、一番デッカイ羊羹をやるわけ。そこが違う。分配のやり方が違うんだ。大きな奴には“少しぐらいガマンしろ”と言えるけどね、生まれて三、四歳のはおさまらんよ。そうでしょう。それが自由経済ッ」(小林吉弥著『田中角栄の人を動かすスピーチ術』講談社) やや強引な物言いではありますが、分配(結果)の平等のために行動を抑制する社会主義・共産主義と、自由な活動から生まれる不均衡を人間の智慧で治める自由主義との比較は、なかなか秀逸です。 要するに、「次善の策」に対する許容度こそが人間の自由な活動を保障しているということなのでしょう。 さて、このケーキの分け方からはさらに、「法的思考」にとって重要なポイントが導かれます。 まず確認しなければならないのは、ここでの公平な分配とは正確に半分に分けることではなく、他人をうらやましいと思わずに済む分け方だということです。 仮に正確にケーキを半分に分ける機械があったとして、それで山田家のケーキを分けたならば、太郎と次郎は喧嘩せずに済むでしょうか。 例えば、太郎の考える真ん中の線が機械の選んだ真ん中の線よりも1ミリ右側で、次郎も太郎と同じ考えだとしたならば、たとえ正確な分け方ではないとしても、2人が真ん中だと信じている線で切り分けなければなりません。 正確さを重視して機械で切り分け、右側を太郎に、左側を次郎に与えた場合、太郎は自分の考える真ん中よりも1ミリ大きなケーキが当たったと感じ、逆に次郎は1ミリ小さなケーキしかもらえなかったと感じます。これでは、2人の喧嘩を避けることはできないでしょう。ここに「法的思考」の難しさと、醍醐味があるのです。 写真/書籍『説得力を高めたい人の法的思考入門』より イラスト/shutterstock
---------- 野村修也(のむら しゅうや) 1962年函館市生まれ。西南学院大学法学部助教授を経て、1998年中央大学法学部教授、2004年より現職。1998年に金融監督庁(現・金融庁)参事に就任して以来、同庁顧問、総務省顧問、厚労省顧問などを務めた。郵政民営化委員、年金記録問題検証委員、国会の原発事故調査委員などを歴任。多数のメディアでMCやコメンテーターを務める。伝統ある中央大学陸上競技部の部会長でもある。著書に『年金被害者を救え 消えた年金記録の解決策』(岩波書店)、『サステナビリティの経営と法務』(経済法令研究会/共著)などがある。 ----------
野村修也