「拘禁刑」来年6月導入控え、対人スキル養う刑務作業…円滑な社会復帰につなげる狙い
懲役刑と禁錮刑を一元化した「拘禁刑」の導入を来年6月に控え、法務省は、受刑者同士が議論して対人スキルを養う刑務作業を試行している。単純な工程を黙々とこなす従来の作業では、実社会で必要な力が身につきにくいためだ。高齢受刑者には体力維持のため運動の時間を設けるなど、個別の事情に応じた処遇も始めており、出所後の円滑な社会復帰につなげる狙いがある。(足立壮、林信登) 【ひと目でわかる比較表】懲役・禁錮と拘禁刑の規定
自発的に意見
高松刑務所(高松市)で8月下旬、男性受刑者4人がテーブルを囲んで座り、真剣な表情で議論していた。テーマは、普段の刑務作業で行う洋服の裁縫作業をより良くする方法だ。
受刑者の一人から「縫い合わせる前の布の各パーツが交ざらないよう、まとめて置いておく箱が必要」との意見が出て、他の受刑者も賛同。各自が箱のサイズや個数、刑務官から許可をもらう手順などを付箋に記し、模造紙に貼り出して議論を深めた。
昨年度に始まった法務省の「コミュニケーション能力等向上作業」の一場面だ。
受刑者らは3か月間で計10回参加する。これまでに24人が受け、作業後は、毎朝のミーティングで「中だるみしないように」「前日の失敗を生かそう」など自発的な意見が出るようになったという。昨夏に参加した男性受刑者(46)は「いろんな価値観や考え方があると初めて意識できた」と振り返る。
担当刑務官は「自由時間を使ってコミュニケーションに関する本を読む受刑者も出てきた」と変化を実感している。
雇用続かず
法務省は昨年度から、高松刑務所、静岡刑務所(静岡市)、佐賀少年刑務所(佐賀市)の3施設でこの作業を試行。今年度は倍以上に増やし、来年度は全国のほぼ全施設で実施予定だ。
受刑者の年齢や障害などに合わせた処遇も進む。一部の刑務所では、高齢受刑者の身体機能の維持を目的に、自転車型トレーニングマシンなどを使ったり、知的障害などがある受刑者向けに認知機能を高める「脳トレ」をしたりしている。
背景には、製品の組み立てなど従来の刑務作業が出所後に生かされていない実情がある。