ライドシェア「一部解禁」に決定的に足りない2つの視点、拙速な議論の末の「見切り発車」に募る不安
4月8日にスタートした「日本型ライドシェア」。出発式に大臣2人が出席して注目を集めたが、そこに至る議論はあまりに急だった。 車両の運行管理を担うタクシー会社も「見切り発車」状態。ライドシェアによる環境や地域社会への影響についての考察が不十分だ。 「日本版ライドシェア」の一部解禁がもたらす新たな課題とは。(JBpress) (桃田健史:自動車ジャーナリスト) 【写真】「日本型ライドシェア」の出発式に出席した河野デジタル大臣ら ついに、新しい形のライドシェアが日本で解禁された。 そのひとつである、東京ハイヤー・タクシー協会「日本型ライドシェア」の出発式が4月8日午前7時過ぎから都内のタクシー事業所で実施された。 会場には、トヨタ自動車「アルファード」のほか、トヨタ「アクア」、三菱自動車「デリカD:5」、スバル「S4」、独BMW「MINI(ミニ) クラブマン」など、通常のタクシーでは使用されることはほとんどない車種が並び、それぞれのクルマの隣に所有者でありライドシェアドライバーである一般の人たちが立った。 式典には、斉藤鉄夫国土交通大臣と河野太郎デジタル大臣が出席したこともあり、筆者を含む多くの報道陣が集まった。 これまでの約半年間の国動きを振り返れば、法整備や海外事例の確認、自治体における地域交通への取り組み方、デジタル技術の活用方法など、多方面の議論が同時並行で進んできた。これはデータに基づき、走りながら考えて臨機応変に対応し、短期に決断する議論の方法であり、河野大臣はIT業界で言われる「アジャイル」という表現を使った。 式典で実質的な進行役を務めた、東京ハイヤー・タクシー協会会長、および全国ハイヤー・タクシー連合会会長の川鍋一朗氏も、これまでの国の動きは極めて早く日本のタクシー史において「前代未聞」と称した。
■ 「見切り発車は仕方がない」 時系列で見れば、岸田首相が昨年10月の臨時国会で「ライドシェア導入」に向けて積極的に議論する姿勢を見せたことをきっかけに、同年11月に規制改革推進会議・地域産業活性化ワーキング・グループは2ヶ月弱という極めて短期間で中間答申をまとめた。 その中で、タクシーに関する各種規制の緩和、道路運送法第78条第3号の制度変更に伴う新しい形のライドシェアの4月導入、そしてタクシー事業者以外の参入も視野に入れたいわゆる「ライドシェア新法」についても6月をめどに協議するとした。 タクシー事業者側は、昨年11月21日に全国ハイヤー・タクシー協会としてタクシー不足解消に向けた考え方について、一部報道陣向けに勉強会を開催した。その時点では、同協会としてライドシェアに積極的な動きはなく、規制改革推進会議での議論の行方を注視すると言うにとどめていた。 だが、年が明けた1月11日に突然、東京ハイヤー・タクシー協会が「日本型ライドシェア」構想を発表。これは、道路運送法第78条第3号の制度変更を想定したものだ。 同協会としてもライドシェア導入に賛否両論あったが「生き残りのため」に決断せざるを得ない状況だったと、川鍋会長は回想した。ドライバー募集や配車アプリ開発などを考えて、4月解禁から逆算すれば、このタイミングでの「見切り発車は致し方ない」という見解だ。 こうした東京地域での決断が、全国のタクシー事業者や配車アプリ事業者に大きな影響を与え、各地で新しい形のライドシェア導入に向けた議論が活発化した。 そして2月からは国土交通省の交通政策審議会・自動車部会で道路運送法に係る変更などが話し合われ、今回の式典の10日前、3月29日に「自家用車活用事業」の制度創設を発表し、その取り扱いについて通達を発出するに至った。 これをもって、「日本版ライドシェア解禁」と報じられることが多い。 また、現行の道路運送法第78条第3号の制度に基づく「自家用車活用事業」では事業主体がタクシー事業者に限定されているため、「一部解禁」という表現を報道で使う場合もある。 一方、国土交通省は道路運送法第78条第2号で規定している既存の「自家用有償旅客運送」についてもさらなる制度の変更を進めていく方針だ。これは、公共交通機関の利用が不便な「交通空白地域」における、地域住民がボランティア精神で参加するライドシェアと言える。