山あいの中学校で「町営塾」スタート・愛知県東栄町 学習環境のハンデ解消を
個別指導で学習習慣を身につけ、苦手教科の克服狙う
町営塾で学ぶのは、数学、国語、英語、理科、社会の5教科。渡辺さんが作ったテキストの問題を、生徒が自分のペースで黙々と解いていく。生徒がつまずきやすい数学の公式などについては「道のりを求めるには、速さかける時間だよ」と、公式の覚え方を黒板に書いてサポートする。一通り問題が解けた生徒は、挙手をして渡辺さんに知らせる。渡辺さんは一人ひとりの机をまわって、答え合わせをしたり、質問に答えたりする。 生徒の学力レベルに合わせた個別指導によって、学校の授業以外での学習習慣を身につけ、苦手な教科を克服するのが狙いだ。町営塾は通常は月に3回、学校の授業終了後に1時間程度開かれるが、夏休み中には、実施回数と時間を増やして、子どもたちの学習をサポートした。 苦手な英語克服のために町営塾で学んでいる井筒海斗君(13)は「英語の覚え方など、具体的に教えてもらえた」と喜ぶ。新城市内の塾に行くことも検討したが、「遠いし、親も仕事があるので送り迎えを頼めない。もし通ったとしても帰りが夜遅くなってしまうので困る。今のように学校の授業終わりに参加できるのは助かる」と町営塾のありがたさを語った。 自分の子どもを自然豊かな環境で育てるため、首都圏の川崎市から山間部の東栄町に移住した渡辺さんは、塾講師だけでなく出版系企業で会社員をした経験もある。それらの経験を基に、「子どもたちには自分がやりたいと思うことをやって、将来それでお金を稼いで生活して欲しい。そのためには、論理的に考える力が必要で、それを町営塾で身につけてほしい」との願いを込めながら、講師をしている。 時に「数学は何の役に立つのか」などと子どもたちに聞かれる事もあるという。そんな時、渡辺さんは「世の中にあふれる情報を取捨選択して、正しく受け取るには、論理的に考えられるようにしなければならない。数学は論理的な思考力を磨けるので大切なんだよ」と伝えるという。「最初に話したとき、生徒たちはポカーンとしていたが、回数を重ねるうちになんとなく大切さがわかったみたい」。生徒の成長を感じる場面の一つだ。 過疎地域での学習支援については「SNSで勉強を教えたり、将来についての悩みを聞くこともある」と、現代ならではのツールを使って生徒をフォローしている現状を語り、「都市と地方との教育格差を埋める役割を果たせたら」と力を込める。