山あいの中学校で「町営塾」スタート・愛知県東栄町 学習環境のハンデ解消を
学校の授業だけでは補いきれない部分を支援する学習塾を町営で開く試みが、愛知県の山間部に位置する東栄町で始まっている。都市部のように、容易に大手の学習塾に通うことができない子どもたち。その学習環境のハンディキャップを埋めようとする取り組みだ。 携帯「不感地域」の解消検討=山間部や離島―総務省研究会 子どもに学習習慣を身につけさせるためなどに支援の場を自治体が運営するケースはあるが、教育格差是正への思いも込めた「町営塾」はあまり例がなく、注目を集めている。
過疎化進む山間部 都市部まで車で50分以上 大手塾に通いたくても通えない現状
愛知県東部の山間部に位置する東栄町は、総面積約123平方キロメートルのうち約90%が森林・原野で占められている。人口に占める65歳以上の割合(高齢化率)は2018年4月現在で49.6%、2017年の出生数はわずか9人と少子高齢化が著しい。昭和の時代には林業が盛んだったが、輸入材の増加や従事者の高齢化などによって衰退。人口流出にも歯止めがかからず、50年前に8000人弱だった人口は、2018年10月末現在で3220人にまで減った。 小学校と中学校は町内に各1校ずつ。児童生徒の数は同年4月現在、小学生116人、中学生52人を数えるのみ。講師個人の自宅で開く形態の民間の学習塾がいくつかあったが、経営者の高齢化などで閉鎖が相次ぎ、現在では2軒程度にまで減ってしまっている。 東栄町に近い地域で大手などの学習塾の校舎が立ち並ぶのは、町の南西に位置し、国道経由で35キロほど離れた新城市だ。しかし、東栄町から新城市に出かけるためには、地域の交通手段の中で一番利便性が高い車を利用しても片道50分以上。新城市内のJR飯田線の駅と東栄町内を結ぶ公共バスも、塾が終わる時間には運行していない。つまり町外の塾へ子ども1人で通うことが難しいのが現状だ。
保護者アンケートで町営塾の議論深まる 既存塾に協力を断られた過去も
町営塾の検討が始まったのは2年ほど前。東栄町教育委員会が小・中学生の保護者に対し、校外の学習活動の状況に関するアンケートを実施したのがきっかけだった。 中学生の子どもがいる保護者に「町内に学習塾(公営塾)は必要と思うか」と聞いたところ、「必要」、「不要」、「どちらでもない」と答えた人がほぼ同率。必要と答えた人の理由のトップは「町外への送迎の負担」で、一方、「不要」と答えた人の多くは「学校の勉強だけで十分」という意見だった。 しかし、町としては、公営塾を希望する保護者が少なからずいたという点を踏まえると、子どもたちに都市部と同じような学習支援の機会を作る必要があると判断。学習支援に関する国や県の補助金を使うなどして、授業以外の学びの場を町営で設けることを決めた。 ただ、町営塾開設までの道のりは平たんではなかった。東栄町は当初、町の予算で講師に来てもらう案などを提案し、既存の学習塾に協力を仰いだが、断られてばかりだった。町教委の青山章・学校教育係長は「既存の学習塾からは『参加見込みの児童生徒数から考えられる授業料では運営コストがまかなえない』と言われた」と振り返る。 最終的に白羽の矢が立ったのは、川崎市から3年前に東栄町に移住してきた渡辺小百合さん(38)。都市部の学習塾で講師の経験があり、移住後は東栄町内の自宅で子供たちに勉強を教えていた渡辺さんに講師役を依頼した。場所は、町唯一の中学校である東栄中学校の1年生の教室。受け入れる生徒も、保護者アンケートで通わせたいという要望が最も多かった中学1年生に設定。今年4月から同学年の生徒全23人のうち、半数近い希望者10人が受講する町営塾がスタートした。