宮崎空港の戦時不発弾は「時限式」 化学反応で作動、米軍はなぜ投下したのか【解説委員室から】
宮崎空港(宮崎市)で10月に突然爆発した太平洋戦争中の不発弾は、信管の作動時間を遅らせる「時限式」の起爆装置が装着されていたとみられることが分かった。防衛省が明らかにした。専門家によると、信管の作動に化学反応を利用しており、数種類の起爆時間が設定できる構造になっていたという。 【図表】米軍資料をベースにした「延期信管」の断面図 旧日本海軍の飛行場だった宮崎空港に、米軍は一体なぜ時限爆弾を投下したのか。戦後80年近くを経て、どうして爆発したのか。戦時中の「負の遺産」から見えてきたものをリポートする。(時事通信解説委員 宮坂一平) ◆弾底部に「延期信管」 爆発は10月2日午前8時前に発生。地中に埋まっていた米国製500ポンド爆弾(日本側通称250キロ爆弾)が「自然爆発」し、誘導路付近のアスファルトに縦約7メートル、横約4メートル、深さ約1メートルの大きな穴が開いた。爆発前、計4便が離陸のためにこの誘導路を使用していた。 同日、陸上自衛隊西部方面隊の第104不発弾処理隊(佐賀・目達原駐屯地)が派遣され、現場で複数の破片を発見、回収。調べたところ、弾底部の破片に「延期信管」と呼ばれる時限式の起爆装置とみられるものが確認された。 太平洋戦争中の空襲の記録を調べている研究者や兵器の専門家によると、時限式500ポンド通常爆弾は、米軍のB29爆撃機などに搭載されて九州のほか、関東などにも投下された。 延期信管は、先端にプロペラ状の羽根が付いており、投下後に羽根の回転に連動してねじ式の軸が押し下げられる構造。軸は有機溶剤の入ったアンプル(ガラス容器)を破砕し、中から漏れ出た溶剤がセルロイドでできた板状のストッパーを溶かして撃針がばねの力で下にはじかれ、雷管を突いて起爆する仕組みになっていた。 爆発までの時間は、セルロイドの厚みを変えることなどで、着弾後1時間から144時間先まで8種類の設定ができたが、液体の溶剤による化学反応で起爆するため、気温によって想定とはずれが生じることが多かったという。 ◆なぜ79年後の今になって 宮崎空港は1943年に旧海軍の飛行基地(赤江飛行場)として建設され、45年3月26日に米軍の慶良間諸島への上陸で始まった沖縄戦の特攻基地にも使用された。沖縄周辺の米艦船撃滅を目指して、陸上爆撃機「銀河」などが相次ぎ出撃したが、同月18日の宮崎初空襲以降、米軍の艦載機や爆撃機により繰り返し攻撃を受けた。 時限爆弾が投下された理由について、主に戦時中の兵器などを研究している山本達也さんは「着弾後いつ爆発するか分からないため、飛行場の復旧を長期に妨害するのが目的。(旧日本軍にとっては)心理的圧迫にもなった」と指摘。特攻基地運用の「阻害効果」を狙ったものだと分析している。 投下から79年が経過して突然爆発した原因に関しては、「ひびが入ったアンプルが何かの振動をきっかけに完全に割れたということも考えられるが、起爆のプロセスがどの段階で停止していたのか、何をきっかけに再始動したのか、それがいつだったのか、検証は困難だ」と話している。 信管のストッパーには、溶剤で溶ける板状のセルロイドのほか、固定球と呼ばれる金属製の球も存在する。溶剤が漏出するまで撃針が不用意に動かないようセルロイドの支えと共に不安定な形で挟み込まれた造りになっており、そうした信管の複雑な構造も、今回の爆発に至る経緯の解明を阻む一因と言える。