「日本初の人工芝のお陰で成功」巨人V9戦士・高田繁氏が語った驚きのサードコンバート裏話 引退の花道はONが演出してくれた
昭和後期のプロ野球に偉大な足跡を残した偉大な選手たちの功績、伝説をアウンサー界のレジェンド・德光和夫が引き出す『プロ野球レジェン堂』。記憶に残る名勝負や“知られざる裏話”、ライバル関係とON(王氏・長嶋氏)との関係など、昭和時代に「最強のスポーツコンテンツ」だった“あの頃のプロ野球”を、令和の今だからこそレジェンドたちに迫る! 【画像】ONが用意してくれた高田繁氏引退の花道 初めて内野・外野の両方でダイヤモンドグラブ賞(現在のゴールデングラブ賞)を獲得した高田繁氏。巨人V9立役者の一人でベストナイン4回。クッションボールの処理がうまく“壁際の魔術師”と呼ばれたプロ野球史上屈指の名レフトに德光和夫が切り込んだ。 【中編からの続き】
星野仙一氏に相性良かった理由
徳光: かなり打ってたピッチャーが1人いますよね。部屋付きの後輩。 高田: 星野か。みんな嫌がってたけど、なんで嫌かといったら、いつぶつけられるか分からないから。 あいつは、なんか土井さんと柴田さんを目の敵にしてた。 王さんや長嶋さんがホームラン打った後、柴田さんが打席に入ったら必ず頭にいってひっくり返すわけ。「バカ野郎!俺がホームラン打ったわけじゃないわ。ONにいけ」って怒るよね。そしたら、「お前らみたいな、くそバッターにあてるか!」。星野がまた言い返すんだ(笑)。 彼は、球自体はそんなすごいボールを持ってたわけじゃないですよ。 徳光: 高田さんは、星野さんとの通算打率が2割9分3厘。なんでこんな打てたんですか。 高田: 僕はぶつけられる心配が全然ないわけ。先輩だもん。 徳光: お世話になった先輩ですもんね(笑)。 高田: もちろんインコースは投げるけど、意図的にぶつけることは絶対ない。だから、怖さがないわけ。
コンバート成功の秘訣は人工芝!?
外野守備で高い評価を得ていた高田氏だったが、昭和50年にサードにコンバートされる。 徳光: これはびっくりしたんじゃないですか。なんでサードへのコンバートだったんですか。 高田: その年は13年間の現役で一番悪い成績だった、2割3分5厘。もう全然打てない状態で、夏過ぎてからはベンチスタートが多かったんです。 シーズンオフに長嶋さんから電話がかかってきて、「明日、練習終わったら家に来てくれ」って言われて。「ああ、これはトレードだな」と思ってね。 その前の日に張本(勲)さんが日本ハムからトレードで巨人に来ることが発表されてた。 高田: 張本さんもレフトだから、自分はトレードだと思ってたら、「来シーズン、3塁をやってみろ」と言われたんです。 僕はピッチャーと外野手以外はやったことない。「高田が欲しいという球団があるなら出してください」って言ったら、「お前はトレードしない」って言われた。 トレードしない、張本さんが来るということなら、サードをやるしかないですよね。 次の日から午前中にバッティング練習で午後からは守備練習。毎日、長嶋監督のノックを受けたという。 高田: その年は巨人が最下位だったから長嶋さんも必死だった。 ずいぶん新聞で叩かれましたから。外野守備で評価されてた僕に、やったこともないサードやらしてどうするんだって。 徳光: 当時、そういう意見はずいぶんありましたよね。高田さん自身は練習してみてやれると思いましたか。 高田: 全然思わない。僕が一番困ったのは緩いゴロなんですよ。 ボテボテと転がってきた球とかバント処理、みんな、取って横からかっこよく1塁にパーンと投げるじゃないですか。あれができないんですよ。今まで、上からしか投げたことないから。 だから、家に帰ってから、ちょうど3人目の子供がお腹にいてお腹が大きいときだったんですけど、妻にボールを転がしてもらって練習しましたよ。 高田: ところが、結果的に僕はまたラッキーだった。次の年から後楽園球場が日本で初めて人工芝になったんです。 それで、多摩川のライトの後ろのところに後楽園と同じ人工芝が敷いてあって、そこで毎日練習したわけです。だから日本のプロ野球選手で、人工芝に一番早く慣れたのは僕。 人工芝だったから、三塁手としてやれたんじゃないですかね。 徳光: それだけでは、プロ野球の三塁手なんてできないでしょ。一度も内野手やったことない人がサードですから。長嶋さんからはどういう風に教わったんですか? 高田: いや、何もない。ノックはしてくれるけど。 僕はやったことがない素人。長嶋さんはサードだったわけですから、普通は「ボールが来たらグラブはこう出して、ステップはこういう風に」とかあるじゃないですか。僕が小学生に教えるときとかそう説明しますよ。 ところが、何にも言わない。いきなり思い切り打ってくる。現役終えたばかりで若かったからね。人工芝で力いっぱい、痛烈な打球を打つだけ。 徳光: ボールも速いんでしょ。 高田: でもそのお陰で、ボールが怖いなんて思ったことはなかったですね。