『覆面系ノイズ』福山リョウコ新作! 芸能クラスの無名俳優たちが織りなす「ひりつく」青春物語【書評】
死ぬ気で頑張る、と口にする人は多いけど、本気であればあるほど、どれだけ努力しても足りないと思わされるのが現実だ。できる限りをつくして挑んだのに、上には上がいて、自分はいつまでも選ばれることがなくて、それでも頑張り続ける人しか、結果を手に入れることはできない。そんな最前線で戦い続ける芸能人たちが在籍する、高校の一クラスを舞台に描かれるのが、『覆面系ノイズ』『恋に無駄口』の福山リョウコさん最新作『人の余命で青春するな』(白泉社)だ。
主人公の之依(のえ)は、無名の俳優。多忙でもないのに、入学から1カ月たつまで教室に姿をあらわさず、芸能クラスに入ったというのに、すべてを諦めた顔をしている、わけあり少女。大好きな監督の映画オーディションで最終選考にたどりついても、どうせ落ちるからと投げやり。その無気力さに腹を立てるのが、同じオーディションに挑む、やっぱり「無名」とクラスで揶揄される音士(ねじ)である
結果が出なくても、本気で挑み続ける限り、可能性はゼロにはならない。そんなかすかな希望を頼りに、諦めることを放棄する音士に触発され、之依は少しずつ情熱をとりもどしていく。そして、「すべてを諦めている役」の演技なら自分にもできるかもしれないと挑んだ、最終選考。憧れの監督からは容赦なく不合格を言い渡される。「欲しいもの全部手に入れようと足掻いた上で その上で諦める者が撮りたい」「『そこ』から動いてない人間は撮りたくない」と。
その悔しさが、彼女を駆り立てる。自分はまだ、悔しさで泣ける。であれば、頑張ることができるのだと、決意を新たにする彼女の姿に、胸を衝かれた。そして、之依の隣で一緒に悔しいと泣く音士のような存在が、自分にもいてくれたらどんなにいいだろうと憧れた。音士は音士で、自分の悔しさと必死に戦っていて、之依に同情しているわけでも寄り添っているわけでもない。ただ、どうしたって挫けてしまいそうになるその瞬間、同じように戦っている人の頑張りを、痛みをそばで感じるだけで、立ち上がる力をもらえるのではないだろうか。そんな2人が「友達」になっていく過程はまさに、青春としか言いようがない。 「私 3年後には死ぬらしいから」と之依は言う。単なる比喩だとごまかしてはいたけれど、たぶん本当なのだろう。あるいは、死ぬことに相当する絶望が、すべてを諦めるしかないと気力を奪う何かが、彼女の未来には待ち受けている。それが何か明かされないまま、仕事も学校行事も全力で挑もうとする之依を、私たちは見守るしかできない。元アイドルで、その過去にいわくがあるらしい音士のことも、それなりに売れてはいるけど苦悩を抱えるクラスメートたちのことも。 でも、ただ見守るだけでなく、物語を追いかけながら、自分も現実と戦い続けたいと思わされる力が本作にはある。人の余命で青春するな、というのは、誰かの人生に想いを託して青春したつもりになるのではなく、自分の命を懸けて人生を盛り上げろ、という意味ではないかと思うから。 なお、本作1巻と同時に、福山リョウコさん作の『聴けない夜は亡い』の4巻と短編集『校長の話が長い』が刊行される。ひりつく現実の中にみえる希望を描いた福山さんの物語を、ぜひさまざまな視点から楽しんでほしい。 文=立花もも