川崎Fの浦和撃破新戦力は、あのボールボーイ問題バッシングを乗り越えた馬渡和彰
いくつかの指示を受けた光景は思い出せる。しかし、史上2チーム目のリーグ戦3連覇を目指す川崎フロンターレの新戦力、馬渡和彰の耳に指揮官の言葉はほとんど入って来なかった。 サンフレッチェ広島から移った新天地で迎えたデビューの瞬間。後半25分から埼玉スタジアムのピッチに投入された瞬間の心境を、27歳の右サイドバックは「めちゃくちゃ緊張していた」と苦笑いで振り返りながら、ベンチ前で鬼木達監督にかけられた言葉を必死に思い出した。 「守備のときにしっかり(ボールサイドに)絞るとか、自分の特徴である攻撃のところをどんどん出して攻め上がっていけ、とは言われたと思います」 J1王者・フロンターレが1-0で天皇杯覇者・浦和レッズを退けた、16日の富士ゼロックス・スーパーカップ。シーズンの幕開けを告げる一戦には、4つのチームを渡り歩いてきた馬渡にとっては初体験となる、5万人を超える大観衆が詰めかけていた。 「そのなかでプレーできたのは、すごく大きい。こういう観客が多い試合(の雰囲気)に早く慣れて、自分のパフォーマンスをさらに出せるようになれば、J1でもやれるという自信はあるので」 激しいバッシングを浴びた軽率な行為を介して、自らの名前を全国へ知らしめた忘れられない過去がある。J2の徳島ヴォルティスでプレーしていた2017シーズン。ジェフユナイテッド千葉のホーム、フクダ電子アリーナに乗り込んだ4月29日の第10節の、ともに無得点で迎えた前半14分だった。 左ウイングバックで先発していた馬渡が、味方からのロングパスに合わせて左タッチライン際をトップスピードで駆けあがる。チャンスを作らせてなるものかと、ジェフのGK佐藤優也が果敢にペナルティーエリアを飛び出してクリア。ボールはタッチラインの外へ蹴り出された。 当然ながらゴールマウスは無人状態。すぐにスローインで試合を再開させれば、それだけヴォルティスのチャンスになる。しかし、気持ちだけがはやってしまったのか。ボールを渡すのがやや遅れ気味になったボールパーソンに怒りを覚えた馬渡は、中学生の少年を思わず小突いてしまった。 直後に高山啓義主審がレッドカードを提示する。前代未聞となる一発退場処分はさまざまなメディアでセンセーショナルに報じられ、問題のシーンの映像も瞬く間に拡散されていった。馬渡にはJリーグから2試合の出場停止処分が、ヴォルティスからも謹慎および減俸処分が科された。