<商いのレッスン>商品値上げに現れる企業の本質 顧客への愛があれば恐れることはない
<今月のお悩み> 歴史的な円安の影響で商品の値上げはやむを得ません。 顧客に納得してもらうために何をすべきですか? 会社で働く人が受け取る名目賃金から、物価変動による影響を除外した賃金の動きを見る指標「実質賃金」。厚生労働省は前年同月比の増減率を毎月公表しているが、7月には26カ月連続マイナスとなる過去最長を記録。インフレ率に賃金の伸びが届かない状況が続いている。 背景にあるのは、原材料価格や物流費の高騰を受け、食品やサービス、電気・ガスなど、幅広い分野で止まらない値上げである。メディアが相次ぐ「値上げラッシュ」をひっきりなしに伝えているのはご存じの通りだ。 こうした報道の多くは売価を改定したケースだが、実は値上げにはもう1種類ある。価格は変わらないが内容量を減らすシュリンクフレーションであり、「実質値上げ」「ステルス値上げ」と呼ばれる。 ある飲料メーカーの例である。同社は定番商品の容器を変更すると同時に、内容量を1000から900ミリリットルに減量。新容器によっておいしさと利便性が向上したとうたった。 従来品に比べ横幅が約5ミリメートル小さくなるから「手が小さいお子さまや握力が弱い高齢者でも持ちやすい」、従来品に比べ筋肉への負担が1割軽減されるので「(従来品より)楽に注ぐことができる」とは同社のプレスリリースの弁。こじつけに感じられるのは筆者だけではないだろう。 企業が値上げをするのは事業継続が可能な利益を確保するためであり、否定されるべきものではない。しかし、どのように消費者の理解を得ようと努めるかに、その企業の本質が現れる。
値上げは愛
2022年4月1日、1979年発売開始以来、42年間も価格を維持してきた国民的駄菓子「うまい棒」の定価が10円から12円に引き上げられた。 うまい棒を手掛けているのは、60年創業のやおきん(東京都墨田区)。「キャベツ太郎」や「蒲焼さん太郎」など、子どもの頃に誰もが親しんできた駄菓子をつくってきた。 値上げ額はたかが2円。同社によると15円、20円という新価格も検討されたという。しかし、20円にすれば、子どもがお小遣いの100円を握りしめて駄菓子屋に行き、今まで10本買えたものが半分の5本になってしまう。「されど2円」なのである。 同社には、子どもには限られたお小遣いの中でさまざまな商品を手にとり、あれやこれやと金額や食べ合わせを考えながら選ぶ楽しさを感じてもらいたい、という顧客への愛があった。 そのとき同社が出した「なくなっちゃうほうが、悲しいから。」と大書された新聞広告が大きな反響を呼んだ。そこにはこう書かれていた。 「未来の子どもたちにも、これからも駄菓子のおいしさと楽しさを届けていくために。ちゃんと利益を出すことで、駄菓子文化の存続と発展に努めていきたい」 値上げを恐れることはない。ただし、そこにはお客様への愛情に裏打ちされた企業努力と、顧客理解への取り組みが欠かせない。 【商いの言葉】 常にお客様の利益を守り かつ己の利益も外さない 正しい利益を生み出す 不退転の売価を付けよう
笹井清範