脅してもすかしても動じぬ台湾、加速する中国離れ 焦る習近平氏、包囲網演習は常態化【中国の今を語る④】
「台湾統一を目指す中国の習近平指導部が、2024年5月に発足した台湾の頼清徳政権への『懲罰』措置を連発している。頼総統の就任演説を『台湾独立の自白』と断じ、直ちに台湾を包囲する軍事演習を実施。6月には『独立派による国家分裂行為』を処罰する司法手続きの指針を発表し、即日施行した。演習を今後『常態化』させ、あらゆる分野で圧力を強めていくだろう」 【写真】中国政府に逆らうと「無理やり注射され、ゾンビのようにされた」 命からがら「自由の国」日本へ、でも待っていたのは… 関西空港に到着すると、スマホに母からのメッセージ「おまえは永遠に中国に足を踏み入れないで」
中国と台湾の双方を研究拠点にしていたこともある国際政治学者、林泉忠・東京大特任研究員が〝台湾有事〟の現状と見通しを分析した。(聞き手・共同通信中国総局 花田仁美) ▽蔡英文路線を継承 頼氏は演説で中台関係について蔡英文前政権の路線を継承し、統一も独立も求めない「現状維持」を訴えた。 蔡前総統は2期8年の任期中、忍耐強い態度で中国に相対し「台湾問題の国際化」に成功し、米国から厚い信頼を得た優れたリーダーだった。 民主進歩党(民進党)には、かつての陳水扁政権が独立志向を強め、米国の支持を失った苦い経験がある。頼氏は蔡氏路線を踏襲するしかなく、米国もまたそれを望んでいるというのが大方の見方だ。実際に頼氏は外交・安全保障を担う政権幹部を蔡前政権の中枢メンバーで固め、米国の不安払拭に努めた。 ▽台湾「管轄権」奪う だが頼氏は現状維持を表明したとはいえ、中国を標的にしすぎた。「台湾を併合する中国のたくらみが消えることはない」「中国に言論での威嚇や武力挑発をやめるよう求める」「中国からの脅威や浸透に対し、国を守る決意を示さなければならない」―。うなずく支持者も多いだろうが、中国に選択の余地を与えない柔軟性を欠いた演説だった。そこが慎重な蔡氏と異なる。中国は過去2回の蔡氏の就任時に演習に踏み切ってはおらず、今日に至るまで蔡氏を「独立分子」と決めつけてはいない。
もちろん今回の演習「連合利剣―2024A」は頼氏の就任前から準備されていた。Aの後にB、Cと続くことは想像に難くない。習指導部は依然として軍事威嚇が「台湾独立派」をたたくのに有効な手段と考えている。 今回の演習には海警局の艦隊も組み込まれた。海警局は今後、金門島や馬祖島など大陸に近い台湾の離島周辺で巡視を強化し、台湾の「管轄権」を徐々に奪おうとするだろう。 ▽日常茶飯事 軍事以外の分野でも圧力を強めるのは確実だ。中国政府は5月末、台湾から輸入する機械や化学製品などの134品目に対する関税優遇措置を停止すると発表。これまで「頑迷な台湾独立分子」をリスト化し台湾の政治家らの中国入国禁止など「制裁」を公表してきたが、今後その対象はメディア、教育、学術界に及ぶかもしれない。処罰指針施行を受け、頼氏ら政治家を一方的に訴追する可能性もある。 もっとも台湾人にとって中国の威嚇は「日常茶飯事」で響かず、危機感はあまり強くはない。