IMFによる2024年10月のGFSR-日本にとっての意味合い
「量的引き締め(QT)」のリスク
今回のGFSRは第1章の前半で、主要国の中央銀行による量的引き締め(QT)のリスクを議論した。つまり、G10の中央銀行の資産規模はピークの28兆ドルから足元で21.5兆ドルに減少し、慎重な運営によってこれまで秩序立って進んでいるが、今後にリスクが残るとした。 主なリスクは、2019年秋の米国のように準備預金の過剰な吸収によって短期金融市場を圧迫することだ。その上で今回のGFSRは、2つの新たなリスクを指摘した。 第一に、主要国が同時にQTを行う下で、ある国で生じた短期金融市場のストレスが、多国籍銀行の活動を通じて別の国に波及する恐れがある点だ。第二に、中央銀行が国債保有の役割を減退させる下で、価格(利回り)に敏感な投資家が国債保有を担う結果、国債市場のボラティリティが上昇する恐れがある点だ。 実際、今回のGFSRは、ユーロ圏のうちドイツでは銀行などの保有が増えたが、他国ではファンドの保有が増えたほか、米国でもFRBの保有を除く国債残高(free float)のシェアが上昇傾向にある点を指摘した。 このうち前者は、各中央銀行が市場の監視結果を密接に共有しつつ、適切に資金を供給することが基本的対策となる。過去の例を踏まえて主要国で外貨スワップを発動することも考えられる。 一方、米欧の国債市場では非銀行金融機関(NBFI)のプレゼンスが上昇してきた。NBFIには機関投資家からヘッジファンドまで多様な投資家が含まれるが、いずれも中央銀行の資金供給ファシリティに常時アクセスができる訳ではないという問題を抱える。 日本でも、日銀がQTを進める中でどのような投資家が国債保有を担うかは、長い目で見て重要な課題となりうる。 上記のリスクを考えると、強い監督下にあり、かつ中央銀行の資金供給ファシリティに常時アクセスしうる銀行が主たる役割を担うことが合理的になる。もっとも、欧州債務危機の経験が示したように、銀行部門が大きなソブリンリスクを抱えた場合、財政危機が銀行危機を経由して、実体経済への波及を強める恐れもある。 日本の今後の方向性については、そうしたトレードオフも考慮し、米欧の実例も踏まえた検討が必要となる。