子ども時代の給食の「完食指導」が原因で…人前で食事をするのが怖い「会食恐怖症」当事者が語るリアル
「同時に、会食恐怖症に関する情報が非常に少ないことがわかり、自分の経験や勉強して得た知識をブログやSNSで発信することにしたんです。いざ活動を始めてみると多くの反応があった。同じ悩みを抱える人がこんなにいるんだと驚きました」 山口さんは’17年、会食恐怖症の経験者として当事者を支援しようと「日本会食恐怖症克服支援協会」を設立。現在はメルマガやSNSによる情報発信、相談会やカウンセリング、講座、当事者コミュニティの運営などに取り組む傍ら、「きゅうけん|月刊給食指導研修資料」の編集長を務め、教員や教育関係者向けに給食指導に関する情報提供、研修や講演などを行っている。 ◆昭和の話かと思いきや、令和の今も続く無理強い行為の「完食指導」 日本会食恐怖症克服支援協会が’19年に行ったアンケート調査によると、会食恐怖症の原因を「完食指導や周りからの強要」とした人は34.7%。そのうちの72.1%が「給食で先生から」との回答だった。 「学校の給食指導は、変わってはきていると思います。昔は『残さず食べよう』だったのが、今は食べる前に先生が『量が多ければ減らしていいよ』と声をかけるようです。 ただ、居残りで食べさせる指導に関しては、いまだに耳にします。保護者同士で『あのクラスの担任は給食にすごく厳しいらしい』というような情報を交換すると聞いたことがあります」 文部科学省が’19年に改訂した「食に関する指導の手引-第二次改訂版-」の第5章「給食の時間における食に関する指導」には、学級担任の役割として「給食時間は児童生徒が友達や担任等と和やかで楽しく会食する時間です。(中略)日頃から児童生徒が安心して食べられる食事環境作りに心がけることが大切です」とある。 「教員向けの研修会で感じる印象では、文科省の手引を読んだことがある現場の先生はほぼいない気がします。栄養教諭だと目を通している先生もいるようですが、クラス担任はおそらく見る余裕が時間的にも精神的にもないのだと思います。 居残りさせる先生はよかれと思って、自分の方針で厳しく指導しているんじゃないでしょうか」 「よかれと思って」いるのかもしれないが、強要や無理強いに当たる指導が令和時代の今もまかり通っていることに驚く。 「無理強いするのはよくないと、誰もが共通認識として持っている世の中になればいいですね。そうすれば、会食恐怖症に悩む人も減ってくると思います」 山口さん自身は現在、会食恐怖症を克服しているのだろうか。 「社会生活に支障を来すほどの症状は出ないので、自分では克服できたと考えています。 会食を楽しめるようになることを目標にする当事者は少なくありません。それは素晴らしいことですが、自分でいろいろアプローチしていく中で、『別にいいか』と思えるようになる場合もある。『人と食べることが苦手だから自分のペースで過ごそう』と。それもある意味、一つの克服の形だと思います」 当事者から相談を受けると、山口さんは必ず伝えることがある。 「自分を責めないでほしいんです。私自身もそうでしたが、当事者はどうしても『食べられない自分はダメな人間だ』と考えてしまう。自分を責めても解決しません。もっと自己肯定感が低くなって、症状が出やすくなるだけです。 だから当事者には必ず、『自分を責める必要はないよ』と伝えています」 山口健太(やまぐち・けんた)「日本会食恐怖症克服支援協会」代表理事、「きゅうけん|月刊給食指導研修資料」編集長、心理カウンセラー。「会食恐怖症」を克服した自身の経験を生かし、会食恐怖症に悩む人へのカウンセリング、学校や保育園への給食指導コンサルティングなどを行っている。著書に『子どもも親もラクになる偏食の教科書』(青春出版社)『マンガでわかる 食べない子が変わる魔法の言葉』(辰巳出版)など。 取材・文:斉藤さゆり
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