ガザ戦争1年、民衆はハマスをどう見ているか
民衆を苦しめるのは占領だけではない
一方で、ヨルダン川西岸の「パレスチナ政策調査研究センター」が、今年5月26日から6月1日に行った世論調査で「ハマスの越境攻撃を『正しい』と答えたガザ住民は57%、『ハマスへの満足度』は64%」という数字を公表している。 この世論調査の数字を元に、私が伝えるMからの報告を「偏った『反ハマス』の少数派の住民の声だけを拾って、あたかもガザ住民全体の世論のように伝えている」との批判もあるだろう。もちろん、私はMの報告がガザ全体を代表していると言うつもりはない。ただ確かなことは、Mからの報告は、実際に戦禍の現地で暮らし、家族2人が戦車の砲撃で殺されたガザ住民の声であり、彼が必死に周囲から集めた声であるということだ。 世論調査の数字がその通りなのか、Mからの報告が事実なのかは、ガザでの戦闘がやみ、世界のジャーナリストたちが現地で実際に取材するときに明らかになるだろう。 住民の「ハマス批判」を強調することはイスラエルのガザ攻撃、ハマス攻撃に加担することであり、「占領するイスラエルと、占領に抵抗して闘うハマス」という構図を見えにくくするという批判もあろう。しかし、イスラエルによる占領という大枠の構造と、パレスチナ内部の構造とはまったく別次元の問題である。2つの構造は現在のパレスチナ情勢の中で並立している。 「パレスチナ対イスラエル」または「ハマス対イスラエル」という二項対立で描くことは確かに分かりやすい。だが、ガザの民衆を苦しめてきたのはイスラエルの占領だけではない。民衆はパレスチナの為政者たちによる悪政にも苦しんできた現実がある。
飢餓状況でタマネギが1個2000円
定期的にMが伝えてくる避難民たちの生活状況は悲惨だ。 現在、ガザでは人口約220万人の75%以上が住居を失っている。日本に換算すると、9000万人以上がホームレス状態ということになる。彼らは1年もの間、学校など避難所やテント暮らしを強いられている。 長期間のテント暮らしは過酷である。秋から冬にかけてガザは雨季に入る。雨が降ると、灌漑(かんがい)設備のないテントの中の地面は水浸しになる。冬の寒さの中でも暖房器具1つない。この生活環境でとりわけ子どもたちの間に風邪やインフルエンザなどが蔓延(まんえん)する。 夏は逆にテントが強い陽射しの熱を吸収し、中は猛烈な暑さとなる。トイレも下水もない。汚水がテントの周囲を流れる。ごみが収集されることもなく、テント群の近くはごみの山ができる。瓦礫(がれき)の下には収容できない遺体が腐乱している。この劣悪な環境の中で蚊やハエなど害虫が大量発生し、それがまた住民を苦しめる。「皮膚病」「肝炎」など感染症が爆発的に住民の中に広がっている。