エスコンフィールドに見るボールパークビジネスの進化形 ベイスターズとはまた異なる“融和”を際立たせた世界観
米大リーグ、パドレスのダルビッシュ有投手が11月8日、プロ野球・日本ハムの本拠地、エスコンフィールドHOKKAIDOを電撃訪問し、話題となった。2023年3月に開業した古巣の新本拠地を訪れるのはこれが初めて。グッズショップなどを訪れたレジェンドにファンは騒然。自身のSNSでは同球場のランドマークとなっている宿泊施設「TOWER11」に泊まったことを報告し「温泉やサウナに入ることも出来て自分だけでなく、今回一緒にきた2人の息子も大喜びでした」と、大いに満喫したことを伝えた。 改めてエスコンフィールドの魅力を認知させるきっかけとなった今回のダルビッシュの発信だが、開業2年目を迎えた2024年シーズンも同球場への注目度は高かった。主催試合の観客動員数は年間207万5734人で、1試合平均2万8830人。これは札幌ドームを本拠地にしていたコロナ禍前の2019年に記録した197万516人、2万7368人を上回るもので、盛り上がりぶりは数字に表れている。また、エスコンフィールドを含む「北海道ボールパークFビレッジ」を運営する株式会社ファイターズスポーツ&エンターテインメント(FSE)の2023年の売上高は215億円、経常利益は約23億円。リーグ最下位だった2023年から2位に躍進し、クライマックスシリーズで主催試合を行った今季は、さらなる増収が見込まれている。 なぜエスコンフィールドは、そこまで人を惹きつけるのか。一つの要因として考えられるのが、「野球」にとどまらず、他企業と連携して「一緒に街を育てていこう」という意識でビジネスを展開している点だ。札幌を離れ、北広島市に移転となった日本ハムの本拠地・エスコンフィールドは最寄り駅(JR千歳線・北広島駅)から2キロ近く離れており、決して交通の便が良い場所ではない。当初は集客面への不安を指摘する声も多く見受けられた。 そもそも、札幌の市街地と新千歳空港の中間に位置する北広島市は総人口5万6000人ほどの都市で、195万人を擁する札幌市とは商業規模でも比較にならない。そこでビジネスを成り立たせるには、「野球」にとどまらない「ボールパーク」としての魅力を広く発信し、外から人を集めるための「街づくり」や「観光地化」を進めていく必要があった。 球場を含むFビレッジエリアは全体で32ヘクタールもの広さがあり、そのうち球場が占めるのは6分の1ほど。レストラン、遊戯施設のほか、ダルビッシュが宿泊したホテルや温泉・サウナを備えた「TOWER11」があり、試合開催日以外も人が足を運んで楽しめる工夫がなされている。球場自体も試合のない日は一部シートなどを無料開放し、さまざまな施設、サービスを稼働させている。 2023年の来場者、年間346万人のうち野球観戦以外の目的で訪れたのは約4割。非試合開催日の来場者は平日で4500人、休日は1万人を数え、北海道外からの来場者も札幌ドーム時代の10%から30%ほどに伸ばしている。北海道屈指の人気観光スポット、旭山動物園の年間来場者数(約130万人)と比較しても、その盛況ぶりは明らか。経営計画では、2028年に年間来場者数約700万人、試合観戦以外の来客7割、60~70億円の追加売上を目指すとしている。 敷地内には不動産開発大手、日本エスコンによる全119戸の分譲マンション「レ・ジェイド北海道ボールパーク」も建設され、86平米で5000万円台と東京郊外のマンションが購入できるほどの価格帯で分譲された。それまでの北広島市の相場を覆す値付けにも関わらず完売。それもFビレッジ、北広島市という街の今後に期待感があるからこそ。事実、同マンションの中古市場の取引価格は販売価格を上回る勢いで、周辺には新たな分譲マンションが建ち、2028年夏頃には新駅の設置や北海道医療大学の移転も予定する。ボールパークビジネスが新たな街をつくり、新たな人の流れを呼んでいるわけだ。