【日本ダービー】田原成貴氏が独自回顧 これが横山典だ!ダノンデサイルの勝因は髪の毛1本レベルの〝異変感知〟
[GⅠ日本ダービー=2024年5月26日(日曜)3歳、東京競馬場・芝2400メートル] 第91回日本ダービーが26日に東京競馬場で行われ、9番人気のダノンデサイルが2馬身差で快勝。56歳3か月でダービー&GⅠ最年長Vとなった横山典弘騎手(56)は10年ぶり3度目、安田翔伍調教師(41)は初のダービー制覇となった。1番人気の皐月賞馬・ジャスティンミラノ以下を退けた同馬の走りは、7万8678人が詰めかけた東京競馬場の大観衆をどよめかせたが、元天才ジョッキー・田原成貴氏(65)の目に映った“勝負の分かれ目”とは――。
研ぎ澄まされ続けている〝感性〟
ノリちゃん、おめでとう! 本当にすごいものを見せてもらった。オレは常々、彼の馬乗りとしての感覚がいかに優れているか? を伝えてきた。今回のダービー制覇はまさにその証明だったと思う。若いころから感性は光っていたが、今なお研ぎ澄まされ続けているのだと痛感した。 多くの方は最年長Vを飾ったダービーの騎乗のことを言っていると思っているだろう。もちろん、それは間違いではない。勝ったダノンデサイルと道中できっちり折り合い、最後の直線で最内をシュッと抜け出すことができたのは鞍上の手腕が大きい。だが、オレは今回のダービー以上に皐月賞を回避したことが勝因だと思っている。その英断に関してはノリちゃん自身が勝利インタビューで語っているが、競走除外するに至った過程に彼の非凡さが隠されているのだ。 回避を決めたのは皐月賞の返し馬が終わった後、ゲートインの直前だった。クラシック1冠目という晴れ舞台だけに「騎手として難しい判断」「回避する勇気」といった声を聞くが、そもそもオレは違和感をいち早く察知したことに意味があると思っている。鈍感な騎手が乗っていたら、ダノンデサイルのわずかな狂いに気付かず皐月賞を走っていただろう。もし無理して出走していたら、ダービーでこのような結果が出せていたかは分からない。並の騎手では気付かない異変を感知する能力が偉業を生んだのだ。 ほとんどの皆さんは競走馬に乗ったことがないと思う。だから分かりやすく自転車でたとえよう。サドルが斜めになっていて、お尻の中心と少しズレていたら走行中に違和感を覚えるだろう。だが、肉眼では分からない程度のズレだったらどうか? 恐らく何も感じずに通常運転できるはずだ。これがダノンデサイルの皐月賞での状態。つまり、ノリちゃんは常人では分からない異変を返し馬で察知した。彼は自分の重心と馬の支点を合わせて騎乗する際、髪の毛1本のズレもなく正確な位置に乗る。だから違和感に気付くのだ。現役時代、ノリちゃんとはそういった馬乗り談議をよくした。若い時から「究極の目標は手綱を離しても馬に乗れること」なんて言っていたのを覚えている。 一方、安田翔伍調教師もすごいと思う。ノリちゃんが感じたわずかな異変がダノンデサイルの馬体のどの部分なのか、時間を要することなく的確に発見し、ベストの処置を施した。判断が間違っていたり、異常がある部位を見つけることに時間を要していたら、これほど短期間で立て直すことはできなかったし、素晴らしい状態でダービーの舞台に送り込むことはできなかっただろう。安田翔調教師もノリちゃんの天才的な感性に応えるべき感覚を身につけているからこそなしえた偉業だと思う。